H18.2.16 東京地裁
損害賠償請求事件
平成18年2月16日判決言渡
平成15年(行ウ)第373号 損害賠償請求事件
(口頭弁論終結日平成17年11月10日)
判 決
原告X
被告東京都目黒区長
同訴訟代理人弁護士 橋本 勇
被告補助参加人Z1
同Z2
同Z3
主 文
1 本件訴えのうち,被告が,A,B,C,D及びEに対し,金員を支払うよう請求することを求める部分を却下する。
2 原告のその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,
(1)A,B,C,D,E及びF社に対し,39億1000万円,
(2)Z3に対し,19億5500万円,
(3)Z1及びZ2に対し,各9億7750万円,
(4)上記(1)ないし(3)記載の者に対し,同記載の対応する各金員に対する平成15年7月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を,連帯して(ただし,(2)及びこれに対応する(4)の金員と(3)及びこれに対応する(4)の金員との間では連帯しない。)支払うよう請求せよ。
第2 事案の概要
本件は,東京都目黒区(以下「目黒区」という。)の区民である原告が,目黒区長であったG(故人。以下「亡G」という。その相続人が補助参加人ら)が旧目黒区役所本庁舎敷地等の売却の際に,条件付き一般競争入札を行うべきところを随意契約によってこれを行い,かつ,最高購入希望価格を提示した会社に対して上記土地等を売却せず,最高価格より39億1000万円も安い価格を提示したF社(以下「本件会社」という。)に対して上記土地等を売却したことにより,目黒区に対し,同額の損害を被らせたとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,亡Gの相続人3名,上記売却当時の目黒区の助役,収入役,教育長,企画経営部長,総務部長の各職にあった者及び本件会社に対して,不法行為に基づき,それぞれ損害賠償金の支払を請求するよう求めている事案である。
1 関係法令等の定め
(1)契約の締結-地方自治法234条1項及び2項
ア 売買,貸借,請負その他の契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする(1項)。
イ 前項の指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に該当するときに限り,これによることができる(2項)。
(2)随意契約-地方自治法施行令167条の2第1項
地方自治法234条2項の規定により随意契約によることができる場合は,次に掲げる場合とする。
2号 不動産の買入れ又は借入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
(その余は省略)
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者等
ア 原告は,目黒区民である。
イ 本件会社は,平成15年3月24日,目黒区から,旧目黒区役所本庁舎の敷地(別紙物件目録1記載の4筆の土地)及びこれに近接する目黒区公会堂敷地(別紙物件目録2記載の2筆の土地)(以下,これらを「本件土地」と総称する。)を,建物の存在するままの状態で,72億円で購入した。
ウ 亡Gは,本件土地の本件会社への売却当時の目黒区長であったが,平成16年3月7日に死亡し,亡Gの妻である補助参加人Z3,子である補助参加人Z1及び同Z2が同人を相続した。
エ 本件土地の売却の際,Aは目黒区助役,Bは目黒区収入役,Cは目黒区教育長,Dは目黒区企画経営部長,Eは目黒区総務部長の地位に,それぞれあった(以下,これらの者を「本件区幹部ら」という。)。
(2)本件土地の売却
ア 目黒区は,平成14年5月13日,本件土地を売却すること及びその売却方法が「公募提案方式」であることを発表した。
イ 本件区幹部らは,いずれも,本件土地の売却先を選定する目黒区本庁舎跡地等土地利用計画審査委員会(以下「本件審査委員会」という。)の委員であった。また,亡G及び本件区幹部らは,いずれも「目黒区政策会議等の設置及び運営に関する規則」で設置され,目黒区の行財政運営の最高方針及び基本施策を審議,決定する目黒区政策会議(以下「政策会議」という。)の構成員でもあった。
ウ 本件審査委員会は,平成14年12月16日に,本件会社の提案を1位とする結果を亡Gに報告した。
そして,亡Gは,平成15年1月14日に開催された政策会議において,本件会社を本件土地の売却先とすることを決定した。
エ 目黒区は,本件会社との間で,平成15年2月17日に,本件土地を目的物とする売買の仮契約を行い,同年3月14日,目黒区議会の議決を経て,同月24日,本件会社に対し,本件土地を72億円で売却した(以下,本件土地の売買契約を「本件契約」という。)。
(3)本件訴訟に至る経緯
ア 原告は,平成15年2月17日,目黒区監査委員に対し,本件契約の差止め及び審査のやり直しを求める住民監査請求をした。
イ 原告は,平成15年3月25日,目黒区監査委員に対し,亡Gに対して39億1000万円の損害賠償請求等の措置を講じるよう求める旨の住民監査請求をした。なお,原告は,本件契約が締結されるに至ったため,上記アの住民監査請求を取り下げた(甲37)。
ウ 目黒区監査委員は,上記イの住民監査請求について協議を実施したが,法定監査期間である60日以内に,意見がまとまらず,合議に至らなかったため,平成15年5月26日付けで,原告に対してその旨を通知した。
3 争点
本件の争点は,次の各点であり,これに対する摘示すべき当事者の主張は,後記「争点に対する判断」において記載するとおりである。
(1)本件訴えのうち,被告に対して,本件区幹部らに損害賠償請求をするよう求める部分は適法であるか否か。
(2)目黒区が本件土地を売却する際に,随意契約の方法を採ったことが違法であるか否か。
(3)目黒区が本件土地を本件会社に72億円で売却したことが違法であるか否か。
(4)亡G及び本件会社は本件契約の締結により,本件区幹部らは本件土地の売却先の決定への関与により,目黒区に39億1000万円の損害を生じさせたといえるか(損害額及びこれと責任原因との相当因果関係の有無)。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1)地方自治法242条の2第1項4号所定の訴訟のうち,普通地方公共団体の執行機関等に対して当該職員に損害賠償の請求をすることを求める請求における「当該職員」とは,財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどしてその権限を有するに至った者を指すと解される。そして,住民訴訟が自己の法律上の利益にかかわらない当該普通地方公共団体の住民という資格で特に地方自治法によって出訴することが認められている民衆訴訟の一種であることにかんがみると,「当該職員」たる地位ないし職にある者に該当しない者に対して損害賠償の請求をすることを求める訴えは,同法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして,不適法なものといわざるを得ない(以上につき,最高裁判所昭和62年4月10日第二小法延判決・民集41巻3号239頁参照)。
(2)ア これを本件についてみると,原告は,当初明確ではなかったものの,後の主張において,本件区幹部らが行った,①本件審査委員会における審査ないし提案の順位付け,②政策会議における本件土地の売却先の決定等が,いずれも違法な財務会計行為であると主張し,同人らが当該財務会計行為について責任を負うものであることを理由にして,損害賠償の請求をすることを求める請求をするものであると明らかにしている。したがって,地方自治法242条の2第1項4号所定の訴訟のうち,本件区幹部らが上記「当該職員」に当たるとして,同人らに対する損害賠償の請求をすることを求める請求をするもの(他方,同人らを「当該職員」以外の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」として損害賠償の請求をすることを求める請求をする趣旨ではないもの)であるということになる。
そして,被告は,上記原告の主張を踏まえて,本件区幹部らに対して損害賠償請求をすべきことを求める請求は,住民監査請求及びそれを前提とする住民訴訟が財務会計上の不当,違法を是正するための手段であるという目的をはるかに超えたものであり,不適法であるといわざるを得ないと主張し,まずもって当該訴えの却下を求めている。
イ ところで,本件区幹部らのうち,目黒区助役,教育長,企画経営部長,総務部長であったA,C,D,Eについては,いずれも財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者には当たらず,また,これらの者から権限の委任を受けるなどしてその権限を有するに至った者であることをうかがわせる事情も全くない。
そうすると,上記4名に対して損害賠償の請求をすることを求める訴えは,そもそも不適法なものとして却下を免れないというべきである。
ウ 他方,目黒区収入役であったB(以下「B」という。)は,その地位からすれば,確かに,財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者に該当する。しかしながら,本件において,原告は,Bが目黒区収入役として行った行為自体を問題としているわけではなく(この点は,原告が,Bに対して,地方自治法243条の2第3項所定の賠償命令を求めていないことからも明らかである。),あくまでBが本件審査委員会の委員ないし政策会議の構成員として行った行為を問題としているにすぎない。したがって,Bについても,本件訴えにおいては,財務会計上の権限を有する者という立場にはないといえることから,Bに対して損害賠償の請求をすることを求める訴えも,結局,上記4名に対する訴えと同様,不適法なものとして却下を免れないものというべきである。
エ なお,仮に,原告が,本件区幹部らについて,同人らを「当該職員」以外の「当該行為若しくは怠る事実に係る相手方」として損害賠償の請求をすることを求める請求をする趣旨であるとしても,その実質において理由がないのは,後記2及び3のとおりである。
2 争点(2)について
(1)原告は,本件土地の売却については,随意契約を採用できる条件を満たしておらず,売却価格の半分以上も犠牲にしており,契約者の合理的裁量判断を大きく逸脱しているから違法であり,本件では,「条件付き一般競争入札」という方法を採用すべきであって,そうすれば,庁舎移転のための財源が最大限に確保される上,目黒区が,跡地利用計画に関して,建物の高さ,延べ床面積,公共施設の設置,緑化・樹木保存,道路,空地,電波障害防止等につき条件を付することにより,周辺地域の住環境との調和を図ることができた旨主張する。さらに,原告は,これを前提として,本件会社は,違法な随意契約であることを知り得る立揚にいながら,目黒区と本件契約を締結した点において,不法行為を行ったものであると主張する。
(2)まず,どのような場合に被告において随意契約を採用できるかであるが、普通地方公共団体が契約を締結するに当たり競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが,競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく,当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても,普通地方公共団体において当該契約の目的,内容に照らしそれに相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合には,上記契約の締結は,地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するというべきである。そして,上記のような場合に該当するか否かは,契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約の締結の方法に制限を加えている法令の趣旨を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。(以上につき,最高裁判所昭和62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁参照)
そこで,以下,本件において,上記のような随意契約を採るための条件が満たされているか否かについて検討する。
(3)証拠(甲2,乙3ないし12,14の3ないし6,15の1,23,24の1ないし4,25,28,証人H)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 目黒区役所旧本庁舎の耐震上の問題や,本庁舎を改装しない限り,庁舎の分散化・狭溢化が改善されないこと等,庁舎の抜本的な対策を施す必要があったため,昭和63年ころから,庁舎移転等について検討が行われていた。
こうした中で,経営破綻により更生手続を進めていたI社(以下「I社」という。)の更生管財人が,平成13年2月4日,目黒区に対し,同社の本社敷地及び建物の取得について打診した。
目黒区としては,I社の本社敷地は,その広さ,立地,経済性等の観点に加え,財産価格審議会の答申,財源の確保等を検討した結果,この機会を逃せば,今後これに匹敵する適地を確保することは困難であると判断し,上記敷地等の取得を決定した。そして,同月14日,同社の更生管財人に対し,買付証明書を提出し,同月26日,同社の更生管財人と目黒区土地開発公社との間において,174億5250万円で売買契約を締結した。このように,いったん,目黒区の出資団体である目黒区土地開発公社が購入した後,目黒区が再取得する方法で購入することとし,本件土地をはじめとする区有地の売却想定額として約120億円,積立基金の活用想定額として約60億円の合計約180億円によって財源の確保を図る予定とされていた。
イ 他方,目黒区では,議会の議決を経て,平成12年10月1日,地方自治法2条4項に基づき,目黒区基本構想を定めており,同構想は,基本目標として①「豊かな人間性をはぐくむ文化の香り高いまち」,②「ふれあいと活力のあるまち」,③「ともに支え合い健やかに安心して暮らせるまち」,④「環境に配慮した安全で快適なまち」を掲げている。
この「環境に配慮した安全で快適なまち」という基本目標を受けた目黒区の基本計画においては,①「みどりの保全,育成など自然環境の保全・創出」,②「街並みの形成,公共・民間による景観の形成など都市景観の形成」,③「計画的な土地利用の促進,市街地整備の推進など調和のとれた都市構造の実現」,④「多様な区民に向けた住宅の確保など快適な居住環境の確保」,⑤「都市の安全性の強化,地域防災体制の充実など安全で安心なまちの実現」,⑥「環境負荷の低減,公害対策の推進など環境への負荷の少ない地域社会の形成」等について定め,目黒区は,上記基本計画にそって各種の施策を推進している。同基本計画に掲げられた施策については,目黒区住宅マスタープラン,目黒区緑の基本計画等の各分野ごとの補助計画が策定され,より具体的な方針が明らかにされているほか,実効性を確保するために,「目黒区みどりの条例」,「目黒区住宅基本条例」,「目黒区環境基本条例」等の条例が制定されており,平成14年7月には「目黒区環境基本計画」が策定されている。
ウ 本件土地は,目黒区の中央部に位置し,60年余りにわたって目黒区民に利用されてきた目黒区役所旧本庁舎及び公会堂の跡地であり,その面積は約9600平方メートルと広大であるとともに,本件土地の周辺は,住宅地と商店街が共存する地域であったため,平成13年4月13日に開催された「都立大学跡地・庁舎建設等調査特別委員会」において,近隣住民対策等について検討が行われ,同年5月には近隣住民説明会が開催された。
同説明会において,近隣住民らから,「区役所がなくなると駅からも遠いため人が来なくなってしまう。区役所があって商店が生きてきた。移転後は商店街が活性化できるように人が集まるようにして欲しい。近隣と商店街についてしっかりフォローしてほしい。」,「もともとは公共の土地なのに,予算がこれだからこの会社でいいやという形で決められてしまうと後の住環境・経済環境・社会環境が破壊され,住んでいる側としては一企業と一個人では力が全然違うので文句のいいようがありません。」,「土地を売却するという事だけではなく,残った住環境の交通や緑地の問題を含めて区が責任を持ってやっていただきたい。」等の発言がされるなど,売却後の本件土地の利用について,近隣住民から高い関心が寄せられていた。
また,平成14年8月に目黒区長あてに寄せられた「桜の木を残してほしいという区民の声」にみられるように,近隣住民及び目黒区民は,本件土地の売却後の目黒公会堂の桜の保存について,高い関心を寄せていた。
エ 平成13年11月ころ,目黒区民らから,都立大学理学部深沢校舎跡地開発計画について,目黒区議会及び目黒区長に対して,それぞれ陳情,要望書が提出され,同陳情を受けた目黒区議会は,東京都知事に対して,建築計画の見直し等を求める意見書を提出した。これは,東京都が,都立大学理学部深沢校舎跡地を一般競争入札によって売却し,それを買い受けた業者が,住民の意向を十分に汲むことなく,高層マンション建設を進めたとされたことに起因するものであり,平成15年7月には,当該マンションについて,一定の高さを超える部分の撤去を求める訴訟が提起された。
オ 本件土地の売却に当たっては,上記イないしエの諸事情を考慮して,売却後の土地利用や近隣住民の意向をも考慮できるようにするため,平成14年5月9日に開催された平成14年度第6回政策会議において,①財政計画に基づき一定額以上で売却すること,②限られた期間内に確実に歳入の確保を図ること,③公正かつ透明性の高い方法で売却すること,④今後のまちづくりに資するように配慮していくことが,本件土地を含む区有地売却に関する基本的考え方として決定された。
カ 目黒区は,平成14年5月14日,本件土地等の売却に関して「平成14年度における区有地の売却方法について(案)」(その主な内容は以下の(ア)ないし(オ)のとおり)を作成し,これに基づいて,議会の企画総務委員会に報告した。
(ア)売却方法等
a 契約の方式:公募提案方式
b 買受者選定方法:審査委員会を設置し,提案内容を審査の上,順位付けを行い,契約する。
(イ)売却スケジュール(予定)
平成14年6月5日~20日 応募要領配布
7月5日 購入意向調査締切
8月15日~30日 提案書等受付
9月1日~12月末 提案内容等審査
平成15年1月中旬ころ 買受者決定(本件土地については議会の議決を要するため引渡しは3月下旬予定)
(ウ)土地利用計画提案上の留意点
応募しようとする者に対し,下記aないしdの4項目を提示し,これに基づき利用計画を提案させる。
a 現庁舎周辺は基本的に住宅地としての性格が強いことを踏まえ,当該地域の居住環境に配慮した,調和のとれた街並み形成を図ること
b 庁舎等の跡地であることから,地域の活性化や安全性の確保など住民に貢献できるよう配慮すること
c 当該地区は,目黒区緑の基本計画で緑化重点地区に位置付けられており,緑化について配慮すること
d 本庁舎部分において必要な歩道状空地を確保し,東急バス停留所及び郵便ポストは残すこと
(エ)選考に当たっての審査項目
土地利用計画提案上の留意点,応募者の信用・資力・資金計画及び購入希望金額等を審査項目とする。
(オ)売却予定価格
売却予定価格を設定するが,公表はしない。
キ 平成14年5月15日に開催された庁舎移転・都立大学跡地建設等調査特別委員会(以下「調査特別委員会」という。)において,目黒区が,本件土地の売却につき,公募提案方式で,随意契約を採用したこと,買受者の選定については本件審査委員会を設置して,提案内容を審査の上,順位付けを行い,最上位の順位者と契約することになった旨報告された。
(4)上記(3)の認定事実のとおり,本件土地の所在場所,広さ,利用状況にかんがみると,本件土地の売却が目黒区民に与える影響が非常に大きいことに加え,目黒区が街づくりや緑化に力を入れていたことから,目黒区が,単なる価格競争だけで契約の相手方を決定し,売却後の本件土地の利用計画には関与しないということでは,目黒区民の理解は得られないとして,財源確保だけではなく,目黒区の街づくりや近隣住民の住環境等への配慮をしようと考えたことには合理性があるといえる。
そうすると,本件においては,目黒区が契約を締結するに当たり,競争入札の方法によることが不可能又は著しく困難とはいえないが,競争原理に基づいて契約の相手方を決定することは必ずしも適当ではなく,多少とも価格の有利性を犠牲にしても,目黒区において,本件土地の売却後の利用に関し,街づくりや緑化の観点から望ましい提案をした相手方を選定し,その者との間で契約を締結することが,本件土地の売却を内容とする契約の性質ないしその目的に照らしてより妥当であり,ひいては,目黒区の利益の増進につながるということができる。
したがって,本件土地の売却は,地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するといえるから,目黒区が本件土地の売却を随意契約の方法で行ったことは適法であるということができる。
なお,原告は,本件においては,「条件付き一般競争入札」という方法を採るべきであった旨主張する。しかし,条件付きであれ,競争入札においては,本件のように審査委員会を設置して提案内容を審査するという方法は想定できないこと,日々変動することが想定される住民の意向を計画内容に反映させるには,入札時に設定した条件に固定される条件付き一般競争入札よりも,提案内容を区民に公表し,それに対する区民の意見を踏まえつつ,目黒区が提案内容を審査していく公募提案方式の方が適切であるとも解し得ることからすれば,原告の上記主張によって,目黒区が,本件土地の特性や近隣住民の意向を踏まえるという目的を達成する手段として,本件土地の売却について随意契約の方式を採ったこと自体の合理性が左右されるものとはいえない。そして,そもそも,前記(2)で示したような随意契約の条件を満たす限り,随意契約の方法を採ることが可能なのであって,必ずしも随意契約を検討する前に条件付き一般競争入札という方法を検討しなければならないわけではなく,この点からしても,原告の上記主張には理由がない。 このほか,原告は,亡G及びE目黒区総務部長が,議会の委員会での報告の際,本件土地の売却を随意契約によって行うことにつき,その採用理由を説明せず,虚偽の答弁をするなどして殊更に隠ぺいしたとも主張する。
しかし,上記(3)カ及びキのとおり,目黒区は,平成14年5月14日,本件土地等の売却に関して「平成14年度における区有地の売却方法について(案)」(ここには,契約の方式は公募提案方式であり,買受者選定方法については,審査委員会を設置し,提案内容を審査の上,順位付けを行い,契約する旨が記載されている。)を作成し,これに基づいて,議会の企画総務委員会に報告するとともに,翌日開催された調査特別委員会において,契約の方式としては,公募提案方式で,随意契約である旨報告している。
原告は,上記(案)において,単に公募提案方式とのみ記載されており,随意契約と記載されていなかった点を問題視するようであるが,買受者選定方法に関する記載(報告)と併せると,本件土地の売却が競争入札ではなく,随意契約によって行われることが特段の支障なく理解し得るものであり,調査特別委員会において,契約の方式としては公募提案方式で,随意契約である旨報告されていることからしても,亡Gらが,本件土地の売却につき,随意契約によって行うことを殊更に隠ぺいしたと評価することはできない。
(5)このように,随意契約によって本件土地を売却する旨の亡Gの決定が適法である以上,本件会社が,本件契約締結の際に,同契約が違法な随意契約である旨認識していたとの原告の主張も成り立たず,本件会社についても,何ら不法行為は成立しない。
3 争点(3)について
(1)原告は,仮に随意契約の採用自体が違法でないとしても,本件契約当時の目黒区の厳しい財政状況からすると,財源の確保こそが本件土地の売却の目的であるのに,目黒区代表者であった亡Gらが,本件土地について110億1000万円の購入価格を提案した会社があったにもかかわらず,同社ではなく,本件会社に対して本件土地を72億円で売却したことにより,目黒区に対し,上記最高提示価格と72億円の差額である39億1000万円の損害を被らせた旨主張する。
そこで,以下,原告の上記主張について検討する。
(2)証拠(甲2,4,45,46,53,乙1,2,14の1,16,17,18の1ないし14,20,25,26,28,29の6,証人H)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件土地の売却に関して平成14年5月9日に開催された平成14年度第6回政策会議において,前記2(3)オ①ないし④の基本的考え方が決定されるとともに,本件土地の買受者の選定方法としては,購入希望金額が売却予定価格以上である提案について,第1次及び第2次の審査を行うこととし,第1次審査においては,書類審査により複数の利用計画を選定し,第2次審査では,第1次審査通過者による本件審査委員会への利用計画のプレゼンテーション等を実施し,目黒区との優先交渉権の順位付けを行い,最上位の者と契約することとされた。
イ 目黒区は,本件土地の売却価格について,不動産鑑定士による鑑定評価(甲45及び46)を踏まえ,目黒区財産価格審議会(目黒区の公有財産の管理及び処分並びに財産の取得及び借入れに関し,適正な価格及び料金を評定する機関)に諮問したところ,平成14年4月25日,公会堂用地の評価価格は62万7000円/平方メートル(公簿上の地積合計4073.44平方メートルを乗じると総額25億5404万6880円となる。),区役所本庁舎用地の評価価格は55万6000円/平方メートル(公簿上の地積合計5528.08平方メートルを乗じると総額30億7361万2480円となる。)である旨の答申がされた。なお,上記審議会は,本件土地の最有効使用は「中層共同住宅の敷地」,本件土地上の建物の構造・用途は「鉄筋コンクリート造5~6階建て」との前提で,上記評価価格を算定している。
目黒区は,上記答申に従い,本件土地の売却予定価格を56億2700万円と設定した。
ウ 目黒区では,前記2(3)カの「平成14年度における区有地の売却方法について(案)」を前提として,「公募提案方式による区有地売却の応募要領」を作成し,平成14年6月5日から,その配布を開始した。
同応募要領には,「応募上の留意点」として,上記(案)に記載されていた土地利用計画提案上の留意点(前記2(3)カ(ウ)aないしd)が,そのまま記載されているほか,買受者については,本件審査委員会において応募者の資力,信用,利用計画及び購入希望金額などを総合的に審査した上で順位付けを行い,その結果を踏まえて決定する旨記載されていた。
エ 本件土地の売却に関して,目黒区本庁舎跡地等土地利用計画審査委員会設置要綱が定められ,同要綱2条において,目黒区本庁舎跡地等土地利用計画審査委員会(本件審査委員会)が,本件土地等の利用計画等の評価及び順位付けを行い,区長に報告するとともに,当該順位付けを行うための評価基準を決定することとされた。
また,上記要綱3条2項及び4項に基づき,3人の学識経験者並びに目黒区助役,収入役,教育長,企画経営部長,新庁舎担当部長,財政担当部長,総務部長,区民生活部長及び都市整備部長が,本件審査委員会の構成員となった。
なお,本件審査委員会は,平成14年9月24日に第1回,同年10月8日に第2回の委員会を開催し,その後行われた応募案の目黒区民への公開閲覧,近隣住民説明会及び閲覧者からの意見等の提出を受けて,同年11月8日,同月15日,同年12月6日(同日には提案者の一部に対するヒアリングも実施されている。),同月13日に,それぞれ第3回から第6回の委員会を開催した。
オ 本件審査委員会が,検討の結果,最終的に採用した本件土地の利用計画に関する評価基準は,具体的には以下のとおりであった。
(ア)評価においては,①信用度評価,②利用計画評価,③価格評価及び④総合的評価の4項目における評価を基準に採点が行われることとされた。
(イ)具体的な採点方法としては,①信用度評価については,監査法人の報告書で判断の上,その有無を判断し,②利用計画評価については,(a)街並みとの調和(用途の適切性,街並みとのバランス),(b)住民への貫献(地域の活性化への寄与,地域の防災安全性への寄与,導入施設の公益性),(c)緑化の確保(全体的緑化,個別的緑化),(d)空地等の確保(歩道状空地の確保,公開空地(提供公園を含む。)の創出,郵便ポスト・バス停等の確保),(e)公害等の各項目(上記(a)ないし(e)は「小項目」,括弧内の記載は「細目」と呼ばれている。)ごとに採点を行う(各細目につき5点を満点として採点した上で,各小項目内での平均点を算出し,その平均点を合計した値をもって,利用計画評価における評価点とする。)こととされた。
そして,③の価格評価においては,売却予定価格を1億円超過するごとに0.1点を加点し,④の総合的評価においては,上記以外の項目又は特に評価すべき項目について,総合的観点から10点以内で加点することとされた。
(ウ)なお,利用計画評価の小項目の(a)ないし(d)は,応募要領において提示された「応募上の留意点」に対応するものである。
(エ)上記評価基準に基づく採点に加え,提案を近隣住民に開示し,審査対象となった計画の概要を近隣住民の閲覧に供して,その意見を聞き,当該意見についても本件審査委員会での審議の参考とすることとされた。
(オ)第5回の本件審査委員会において,各審査委員は,売却予定価格以上の価格を提示した提案につき,利用計画評価及び総合的評価の両項目について評価点を付するが,信用度評価については,監査法人の報告書をもとに事務局が行い,価格評価の項目についても,売却予定価格と購入希望金額との比較で決定されるとして,事務局で機械的に加点することとされた。
カ 公募提案書の受付は,平成14年8月30日まで行われ,その間に16件の提案があったものの,そのうち1件は購入希望価格が売却予定価格を下回るものであり,1件は辞退されたため,最終的に審査対象となる提案は14件であった。
これらの提案は,価格では58億1780万円から111億1000万円までであるほか,本庁舎跡地については,住宅戸数が146戸から207戸まで,地上階数が7階から25階まで,延べ床面積が1万5699平方メートルから2万4613平方メートルまでであり,公会堂跡地については,住宅戸数が82戸から151戸まで,地上階数が6階から14階まで,延べ床面積が9196平方メートルから1万5092平方メートルまでとなっているほか,提案の多くは,保存すべき樹木や地域貢献施設等についても提案していた。
キ 本件会社の提案内容の詳細は別紙「本件会社の提案内容」記載のとおりであり,①地上部階層は12階ないし13階であり,②100tの防火水槽の設置や防災用備蓄倉庫のスペースの確保などの地域防災方法を提示しており,③導入施設(仮称目黒フォーラム[多目的集会ホール・レンタルスタジオ等])は605平方メートルとされ,④「緑の小径」,「ポケットパーク」の整備等の緑化計画を示しており,⑤風環境,日影,電波障害等の検討を行い,周辺地域(環境)に与える影響が少ない計画を目指すというものであった。
また,本件会社は,平成14年12月6日に行われたヒアリングの際に,地域貢献施設の面積を,提案時の605平方メートル(650平方メートルと記載されているが,これは誤りである。)から1300平方メートルに拡大し,これを目黒区に無償で譲渡する旨提案するとともに,仮に近隣住民から階数を低くするよう要望があった場合には,企業努力の中で吸収していく旨述べた。
ク 本件審査委員会は,第4回の委員会において,ヒアリングの対象を,整理番号5,7,9及び10,12,13,14とすることを決定した。
第5回の委員会では,上記各提案につきヒアリングが行われた。ヒアリングは1社当たり20分程度とされ,最初の5分間程度で,提案者が共通質問事項について回答し,残りの時間に,審査委員が自由に質問をして提案者の考え方を聞くという方法で行われた。
第6回の委員会では,上記ヒアリングの結果も踏まえ,まず価格評価を含まずに上位7提案を選び出し(上位から順に整理番号7,10,13,5,9,14,4となった。なお,整理番号4の提案は,国際教育施設というユニークな内容が評価され,追加された。),価格については事務局で自動的に加点し(その結果,上位から順に整理番号7,13,14,10,9,5,4となった。),このうち上位3提案を亡Gに報告することが決定された。
そして,本件審査委員会は,上位3提案を比較すると,整理番号7の提案(本件会社の提案)が,街並みとの調和,住民への貢献(同項目に関しては,ヒアリングでの地域貢献施設の面積拡大及び目黒区への無償譲渡が高く評価されている。),緑化の確保,空地等の確保,公害等のすべての評価項目において,細かい配慮がされ,計画の密度が高いと評価し,平成14年12月16日,本件会社の提案を1位とする報告を亡Gに提出した。
ケ 亡Gは,平成15年1月14日に開催された政策会議において,本件審査委員会の前記報告に則り,本件会社の提案を採用することを決定し,同月15日,同決定事項を議会運営委員会に報告し,同年2月17日,目黒区を代表して,本件会社との間で本件土地を対象とする売買の仮契約を行い,同年3月14日の議会における議決を経て,同月24日に,本件会社との間で,正式な売買契約を締結した。
コ なお,目黒区役所通り商店会は,平成15年2月26日付けで,目黒区長あてに,本件土地の売却について,本件会社の提案が採用されたことに感謝するとともに,同提案が最も良いと考えていること,一日も早い契約締結を望んでいること等を伝えていた。
(3)上記(2)の事実を基に検討するに,まず,前記2のとおり,本件土地の売却は,目黒区本庁舎移転に伴う土地等の売却であり,同売却後の目黒区の街づくりや,近隣住民の住環境等への配慮を図る必要があったことからすると,目黒区が,本件土地の売却に当たって,応募上の留意点を設定するとともに,本件土地の売却先を選定する上で,本件審査委員会を設置し,審査委員らが評価基準の決定及び同基準に基づく実際の提案の評価・順位付けを行うようにしたことは,上記の配慮の必要性に照らし,合理的といえる。
そして,本件審査委員会の職責の専門性からして,評価基準の設定について,審査委員らの相当程度広範な裁量にゆだねられているというべきであり,実際の提案の順位付けに際しては,ある程度,順位付けを行う者の総合的判断に影響されるのは当然である。
そうすると,本件において,本件審査委員会が,前記(2)オ(ア)(イ)の評価基準を設定した上で,同基準に基づいて,売却予定価格を上回る買受金額を提示した各提案につき審査を行い,総合的にみて,本件会社の提案が内容的に一番優れていると判断した上で,価格評価も含めて,最終的にこれを1位に順位付けしたことは,同委員会の裁量の範囲内というべきである。
そして,本件審査委員会が設けられた趣旨からすれば,政策会議が,同委員会の上記判断を尊重して,本件会社を売却先に選定したことは当然であって,これが,同委員会の上記判断と別個に違法と評価されるべきではない。
さらに,亡Gが,上記政策会議の決定を踏まえ,目黒区の代表者として,本件会社に対して本件土地を売却したことも,その裁量の範囲内ということができ,最高額の111億1000万円を提示した会社に対して本件土地を売却すべきであったとはいえない。
なお,前記1のとおり,そもそも,本件訴えのうち本件区幹部らに関する部分は不適法であるが,実質的にみても,以上のとおり,本件審査委員会及び政策会議の判断が何ら違法でない以上,これらの構成員であった本件区幹部らは,何ら違法行為を行っていないことになる。
また,亡Gは,政策会議の構成員として本件会社を売却先に選定し,目黒区の代表者として,本件会社との間で本件契約を締結したが,いずれも違法な行為ということはできない。
(4)被告が,本件土地を,111億1000万円の最高買受価格を提示した会社ではなく,本件会社に対し,72億円で売却したことの適法性についての基本的な検討は以上のとおりであるが,原告がこの点に関して個別詳細に主張する点についても,必要な限度で更に補足して判断することとする。
ア 価格面での犠牲について
(ア)目黒区にとって,本件土地の売却価格が高いという事実は,明解で可視的な利益であるが,他方で,周辺環境への配慮や住民の要望の反映という観点からすれば,本件土地を高い価格で売却しさえすれば足りるものではない。そもそも,随意契約の方法を採ったことにより,本件土地の売却に当たっては価格以外の要素を重視する旨の目黒区の意思は明らかであり(地方公共団体が契約を締結するに当たって,常に価格面で最も有利な提案を選択しなげればならないとすれば,随意契約という方法が法令上規定される意味がなくなってしまうから,この点に関する原告の主張は採用できない。),価格的にみれば必ずしも有利とはいえない相手方を契約相手として選択したことのみをもって,違法であるとはいえない。
この点,原告は,本件での価格面での犠牲は多大であり,「多少なりとも」「ある程度」という限度にはとどまらないと主張する。
しかし,本件会社の提示した72億円という価格は,少なくとも目黒区が想定した売却予定価格56億2700万円を15億円強上回っているのであるから,本件での価格面での犠牲が,許されない程度であるとはいえない。
そして,目黒区の設定した本件土地の売却予定価格が,5,6階建ての建物の敷地としての利用を前提としているのに対し,本件会社の提案内容が12ないし13階建ての建物の敷地としての利用を前提としているからといって,直ちに,本件土地の適正な売却価額が高騰し,本件会社の提案価格である72億円を上回ると断定できるわけではなく,原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠もない。
(イ)また,原告は,ヒアリングの際に,本件会社が建物の階数を減らす用意があると述べたにもかかわらず,本件区幹部らが,同社に対してこれを要求していないことからすれば,本件会社は階数減少に相当する分につき得をしており,その分,目黒区が損をしている旨主張する。
しかし,この点についても,証拠(証人H)によれば,本件区幹部らは,本件会社が階数を減らす用意があると述べたことをもって,本件会社の提案内容に柔軟性があると評価したことが認められ,同人らが「階数を減らせば良い提案になる」と判断したわけではないのであるから,原告の上記主張は失当である。
(ウ)なお,原告は,本件土地の売却当時,目黒区の財政状況は逼迫しており,本件土地の売却はあくまでI社の本社敷地等取得に係る財源確保が目的であったから,目黒区は,最高価格111億1000万円を提示した会社と売貿契約を締結すべきであった旨主張し,その根拠の1つとして,目黒区が,条例を改正してまで,I社の本社敷地等の購入以外の目的で積み立てられていた資金を同購入資金に流用したことを挙げる。
しかし,既に述べたとおり,本件土地の売却に際しては,財源確保のみを考慮すれば足りるものではなかった上,前記2(3)アのとおり,新庁舎取得のための資金調達については,目黒区は相応の試算をしていたものであり,仮に条例改正に関する原告主張の事実が認められるとしても,それは,当不当の問題にとどまるものであって,この点が,目黒区が本件会社を売却先としたことの適法性に影響を与えるものではない。
イ 評価基準の合理性等について
(ア)前述のとおり,計画内容という定性的なものを評価する上で,いかなる基準を用いるかについても,ある程度,評価基準を設定する者(本件では,審査委員ら)らの専門的知見等にゆだねられているというべきであり,審査委員らの裁量の範囲を逸脱しない限り,違法とはいえない。
原告は,1億円を0.1点とする評価方法に根拠がない旨主張するが,随意契約を採用する以上,価格の要素にどの程度ウェイトを置いて評価するかについては,基本的には審査委員らの裁量にゆだねられているというべきであって,上記の評価方法が,審査委員らの裁量の範囲を逸脱したり,裁量権を濫用するものであるとまではいえない。
(イ)また,原告は,各提案の評価に当たり,「総合的評価」の位置付け(ここで価格的評価を行えるかどうか)があいまいであって,的確に活用されていないとか,逆に,ここで価格以外の要素を理由として加点できるのであれば,ただでさえ軽視されている価格が,更に軽視されることになる旨主張する。
しかし,この点も,前記のとおり,基本的には審査委員らの裁量にゆだねられているというべきであり,審査基準において「総合的評価」という項目を設けたこと及び同項目において必要な限り様々な要素を考慮できるようにしたことが,審査委員らの裁量の範囲の逸脱又は裁量権の濫用であるとはいえないから,原告の上記主張は採用できない。
また,そもそも提案者に対してヒアリングを行うかどうかや,ヒアリングの時間の長短等も,審査委員らの合理的裁量にゆだねられているというべきである。
(ウ)このほか,原告は,本件審査委員会は,委員12人中,9人が行政側の委員という極めて偏向した構成で,当該9人は,亡Gの指揮下にある幹部職員であったから,審査の公正さは保証されず,行政側の意向が強く反映されていたとも主張するが,学識経験者と目黒区の役員とを構成員とすることが,それ自体で特段不合理であるということはできない。
(エ)なお,本件土地は,あくまでも売却後は私有地になるものであるから,目黒区が本件土地の売却決定時に,売却後の同土地の利用方法について具体的な計画を有していなかった(その結果として「応募上の留意点」の記載が抽象的であった)からといって,責められるべきいわれはない。
ウ 亡Gらと本件会社の癒着の疑いについて
原告は,亡Gないし本件区幹部らと本件会社が癒着していた旨主張し,その根拠として,①本件会社に関係する者が,目黒区の住民であるかのように装って,本件会社の提案内容を高く評価する内容の意見書を提出したことが強く疑われるにもかかわらず,亡Gや本件区幹部らが,この問題を追及しなかったこと,②本件区幹部らが,ヒアリングの際,本件会社に対して,地域貢献施設の面積の拡大及び目黒区への無償譲渡に関して誘導尋問を行って,本件会社の提案が高く評価されるようにしたこと等を挙げる。
しかし,上記①は原告の憶測の域を出るものではなく,同②については,当該ヒアリングが行われた審査委員会の会議録(甲2事実証明書6,乙29の6)によっても,当該ヒアリングの際,審査委員が原告が主張するような誘導尋問を行ったことを認めるに足らず,他に原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
エ 周辺環境との調和について
原告は,本件土地上に新たに建てられた建物が12階,13階建てであることを問題とするが,一般的に,東京都特別区の中心部において,12階ないし13階建て程度の高さの建物が存在することをもって,周辺地域の住環境への配慮を欠くとまではいえない。
このほか,原告は,結果的にみて,本件会社が建てたマンションは,周辺住環境と調和していないとも主張するが,これは,結果論としての当不当の問題にすぎない。
4 以上のとおり,本件審査委員会による審査基準の設定及び順位付け並びに政策会議の決定は,いずれも適法に行われており,これらに基づいて,亡Gが,目黒区の代表者として,本件会社との間で本件契約を締結したことも適法であるから,争点(4)(損害額及びこれと責任原因との相当因果関係の有無)について判断するまでもなく,原告の請求(亡G及び本件会社に関する部分)には理由がない。
第4 結論
よって,本件訴えのうち,被告が本件区幹部らに対して損害賠償請求をするよう求める部分は不適法であるから,これらをいずれも却下することとし,その余の訴えに係る請求は理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官・大門 匡,裁判官・吉田 徹,同・矢口俊哉