H16.4.27 東京高裁
固定資産評価審査決定取消請求控訴事件
平成16年4月27日判決言渡
平成14年(行コ)第285号 固定資産評価審査決定取消請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成10年(行ウ)第107号)
(口頭弁論終結日平成15年11月18日)
判 決
当事者の表示 省略
主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文と同旨。
第2 事案の概要
1 本件は、原判決別紙物件目録記載の各土地(いずれも山林)の固定資産税の納税義務者である被控訴人らが、AB市長によって決定され、土地課税台帳に登録された上記各土地の平成9年度の価格(同目録「価格」欄記載の価格)について、固定資産評価基準によらずに決定された違法があると主張して控訴人に対して審査の申出をしたが、控訴人から平成10年3月31日付けで審査申出を棄却するとの決定を受けたため、その取消しを求めた事案である。
原審は、上記各決定について、状況類似地区の区分、標準山林の選定、標準山林の評点数の付設方法が固定資産評価基準の定める方法によって行われていない点において同基準に適合しない違法があり、また、上記物件目録記載1及び2の各土地に係る決定については、搬出地点の標高を誤った点においても同基準に適合しない違法があると判断した上で、本件において提出された全証拠によっても、上記各土地の具体的な価額は算定することができないといわざるを得ないとして、上記各決定をいずれも取り消すべきものとしたため、控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提となる事実、法令の定め等、当事者の主張及び争点 省略
第3 当裁判所の判断
1 土地に対する固定資産税は、土地の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって、個々の土地の収益性の有無にかかわらず、その所有者に対して課するものであるから、固定資産税の課税標準である土地の価格(適正な時価)とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。したがって、登録価格が基準年度に係る賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、当該登録価格の決定は違法となる(最高裁判所平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。
他方、地方税法は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を自治大臣の告示である評価基準にゆだね(87号改正前の地方税法388条1項)、市町村長は、評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(160号改正前の地方税法403条1項)が、これは、全国一律の統一的な評価基準による評価によって、各市町村全体の評価の均衡を図り、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消するために、固定資産の価格は評価基準によって決定されることを要するものとする趣旨である(上記判決参照)。評価基準は、このような趣旨を踏まえて、大量に存在する固定資産について、それぞれ個別の評価をすることなく、短期間のうちに可及的に適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準を定めたものであると解される。
上記の適正な時価の意義及び評価基準によって固定資産の評価を決定すべきものとした趣旨からすれば、登録価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回っている場合には、それだけで、すなわち当該登録価格の算定が評価基準に適合していないときはもとより、これに適合しているときであっても、当該登録価格の決定は違法となり、当該固定資産税の納税義務者の利益を侵害するものとして取り消されるべきものというべきであるが、登録価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回っていない場合には、当該登録価格の算定が評価基準に適合していないとしても、そのことが直ちに当該固定資産税の納税義務者の利益を侵害することになると解すべきではなく、評価基準を正しく適用すれば、その算定価格が当該登録価格を下回ることになると認められるとき、あるいは、それが認められなくとも、評価基準によって固定資産の価格を決定すべきものとした上記の趣旨を没却するような著しい評価の不均衡が生じていると認められるときに、課税負担の公平の見地から、評価基準に適合していないことが当該固定資産税の納税義務者の利益を侵害することになり、当該登録価格の決定は取り消されるべきものと解すべきであり、また、当該登録価格がおよそ評価基準に基づいて算定されたものと評価し得ないほどに評価基準に著しく違背して算定されたものと解されるときは、重大な手続違背の場合に準じて、上記の評価基準を正しく適用した場合の算定価格との高低や著しい評価の不均衡の有無について判断するまでもなく、当該登録価格の決定は違法となり、直ちに取り消されるべきものと解するのが相当である。
そうであるとすると、登録価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回っていないことが明らかな場合には、当該登録価格がおよそ評価基準に基づいて算定されたものと評価し得ないほどに評価基準に著しく違背して算定されたものと解される場合を除いて、評価基準を正しく適用すればその算定価格が当該登録価格を下回ることになるか、当該登録価格の決定によって上記の趣旨を没却するような著しい評価の不均衡が生じていない限り、当該固定資産税の納税義務者は、当該登録価格の決定によって不利益を受けるものとはいえないというべきであるから、仮に、当該登録価格の決定に評価基準に適合しない違法があるとしても、当該固定資産税の納税義務者がその違法を理由に当該登録価格の決定の取消しを求めることは、自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張するものであって、許されないものというべきである(行政事件訴訟法10条1項)。
2 以上の見地に立って、まず、本件各決定における登録価格の算定が評価基準に適合しているか否か、及び適合しているといえないときは、その違背の程度について検討する。
(1) 本件各決定は、状況類似地区を区分し、各状況類似地区ごとに標準山林を選定し、標準山林に評点数を付設し、標準山林の評点数に比準して本件各山林の評点数を付設するという方法で、本件各山林の価額を求めており(この点は当事者間に争いがない。)、この方法自体は、評価基準の定める山林の評価方法である標準山林比準方式にかなったものということができる。
(2) 証拠等によって認定することができる本件各決定における状況類似地区の区分及び各状況類似地区の状況は、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」2(3)記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決44頁10行目の「標準山林1」を「標準山林10」に、45頁下から10行目の「標高921メートル」を「標高929メートル」にそれぞれ改め、47頁下から2行目の次に改行して「標準山林23は字Cに、本件山林17は字Dに、それぞれ所在する。」を加え、49頁7行目の「23の状況類似地区」を「24の状況類似地区」に改め、同9行目の次に改行して「なお、状況類似地区10,11及び23における平成元年から平成9年までの間の売買実例の有無は、別表2ないし4の各「⑪売買実例の有無」欄記載のとおりであり、状況類似地区10で平成7年に1例、同23で平成元年、平成3年、平成4年、平成8年に各1例(計4例)の実例があるにすぎず、同11では実例がなく、本件各山林が所在する小字における実例は1例も存在しない。」を加える。
また、証拠(乙2、4ないし7、13ないし16,22、25、30の1・3・6)によれば、上記の状況類似地区の区分を前提に各状況類似地区について選定された標準山林10、11及び23の各山林の状況は、控訴人の主張(前記引用に係る原判決第2の3の「(被告の主張)」(3))のとおりであることが認められる。
(3) 上記認定事実によれば、状況類似地区10、11及び23は、いずれも、多数の小字を合わせて一つの状況類似地区としたものである(評価基準のうち、状況類似地区を小字の区域ごとに認定するものとした点が一般的な合理性を有するものかどうかについては、ここでは措くこととする。)が、大きな尾根や河川によって区切られた地域を一つの状況類似地区としたものであり、大きな地形条件に着目して区分されたものということができる(状況類似地区23は、59の小字を合わせたものであり、小字の数は同10及び11に比べて多いが、一小字当たりの面積が小さいため、状況類似地区全体の面積は同10及び11と極端な違いはない。)。また、状況類似地区10は、最高標高地点が751メートル、最低標高地点が190メートルで、標高差は561メートルあり、傾斜方向も様々であるが、全体的に見れば、北西から南東に向かって流れるJ川の北岸に位置することから、南ないし東の方向に傾斜している山林が多く、傾斜角度も15度以上40度未満のものがほとんどであり、表層地質もほとんどが砂岩・頁岩である。状況類似地区11は、最高標高地点が929メートル、最低標高地点が206メートルで、標高差は723メートルに及び、傾斜方向も様々であり、平均斜度が15度未満の字や雑木の割合が30パーセントを超える字もあるが、全体的に見れば、J川の南岸に位置することから、J川に向かって北ないし東の方向に傾斜している山林が多く、傾斜角度も15度以上40度未満のものが多く、表層地質もほとんどが砂岩・頁岩である(乙1、6、14及び弁論の全趣旨によれば、雑木の割合の高い字は、ロープウェイの山頂駅や神社、国民宿舎等がある地域という特殊性を有していることも認められる。)。状況類似地区23は、平均斜度が15度未満の字や30度を超える字、雑木の割合の高い字があり、傾斜方向も様々であるが、全体的に見れば、最高標高地点が634メートル、最低標高地点が158メートルで、標高差は476メートルにとどまっており、傾斜角度もほとんどが30度未満の緩やかな山林であり、表層地質も多くの部分が砂岩・頁岩・塩基性火山岩である。
このように見てくると、状況類似地区10、11及び23について、地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況を総合的に考慮し、おおむねその状況が類似していると認められるかどうかには、なお検討すべき点が残されていると見る余地もあるが、上記で説示した点のほか、各状況類似地区とも、その大半が杉・檜を主体とした人工造林であって、標高や傾斜方向・傾斜角度が上記のとおり必ずしも一様でないことに比して、その利用状況には大きな差異が見られないこと、各状況類似地区における売買実例がほとんどなく、各状況類似地区を更に地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況に照らして細かく分割し、細かく分割した地区ごとに標準山林を選定したとしても、それが標準山林及び比準山林の適正な評価に資することにつながるかどうかには疑問がある上、宅地や農地の場合と異なり、広大な山林の地域について厳密な調査をし、その結果に基づいて状況類似地区を細かく区分するためには、現実問題として、それによって得られる効果に比して多額の費用がかかることが避けられないことをも併せ考慮すれば、本件各決定に係る状況類似地区の区分は、少なくとも、評価基準の定める考慮要素を全く無視するなどして恣意的に行われたものではなく、評価基準に著しく違背しているとはいえないものというべきである。
また、各状況類似地区の標準山林として選定された標準山林10、11及び23の各山林は、各状況類似地区の中央部付近に位置しており、その標高や傾斜角度は上記の各状況類似地区の平均標高や平均斜度に近いものということができるから、各標準山林の選定についても、比較的多数所在する山林のうちから一の山林を選定するものとするとの評価基準に著しく違背しているとはいえない。
(4) 次に、標準山林の評点数の付設及び本件各山林の評点数の付設について、証拠(甲2、5)及び弁論の全趣旨によれば、B市においては、昭和39年度の評価に際して選定した標準山林をそのまま維持し(ただし、標準山林23については、従前の標準山林が採石場となったために、平成3年度の評価以降、現在地の山林を標準山林とした。)、立木価格等の推移、A知事による指示平均価額及び基準地価格を参酌して求めた一定の倍率を前評価年の評価額に乗じた価格を当該評価年における評価額とし、極度の林業不振という実態を勘案して、平成6年度の評価においては平成3年度の評価額をそのまま据え置き、平成9年度においてもその評価額を据え置くという方法で、標準山林に対する評点数の付設が行われたこと、この結果、平成9年度の単位地積当たり評点数(1000平方メートル当たりの評価額)は、標準山林10が3万6750円、標準山林11が3万8700円、標準山林23が3万2400円とされたこと、そして、山林の比準表による比準割合が、本件山林16につき0.9、その余の本件各山林につき1.0とされた結果、本件各山林の単位地積当たり評点数は、本件山林1ないし14が3万6750円、本件山林15が3万8700円、本件山林16が3万4830円、本件山林17が3万2400円とされたこと(原判決別表5参照)、平成9年度の固定資産の評価において、B市で参照可能な山林の売買実例としては7例が存在し(乙8)、このうちの1例は状況類似地区10に所在するF3丁目地内の山林であったが、同11及び23では売買実例そのものが存在しなかったこと、以上の事実が認められる。
(5) 上記認定事実によれば、本件各決定における標準山林の評点数の付設は、売買山林の売買実例価額から正常売買価格を求め、これから標準山林の適正な時価を評定したものではないから、評価基準の定めに従って行われたものとはいえない。
しかしながら、各状況類似地区における山林の売買実例そのものが極めて少なく(前記(2)参照)、このような数少ない売買実例価額の内容を検討し、これを必要に応じて修正して正常売買価格を求めることには少なからざる困難が伴うと考えられること、評価基準も、売買山林の正常売買価格から標準山林の適正な時価を評定するに際しては、基準山林との評価の均衡及び標準山林相互間の評価の均衡を総合的に考慮するものとしていることからすれば、立木価格等の推移、A知事による指示平均価額及び基準地価格を参酌して求めた一定の倍率を前評価年の評価額に乗じるという本件各決定が採用した方法は、売買実例そのものが極めて少ない中で、標準山林の評点数を付設するに当たり、基準山林との評価の均衡を図るという評価基準の要請に応えようとしたものと評することもできるから、このような方法も、一概に合理性を欠くものと断ずることはできないというべきであり、本件各決定における標準山林の評点数の付設も、評価基準に著しく違背しているとまではいえないというべきである。
また、控訴人と被控訴人らとの間には、評価基準の山林の比準表にいう山林の中央部の標高及び搬出地点の各意義をどのように解釈すべきか、また、本件各山林に関し、山林の比準表以外の理由による補正の必要性があるか等について、見解の相違があるが、本件各決定は、上記認定のとおり、評価基準の山林の比準表によって本件各山林の比準割合を求め、標準山林の評点数に比準して本件各山林の評点数を付設しているから、本件各決定における本件各山林の評点数の付設が評価基準に著しく違背しているとはいえない。
(6) 以上で検討したところによれば、本件各決定における登録価格の算定は、およそ評価基準に基づいて算定されたものと評価し得ないほどに評価基準に著しく違背して行われたものとは解されない。
(中略)
4(1) 上記認定事実によれば、E鑑定書の本件各山林の評価方法は、一般的要因の分析、地域分析、個別分析、評価手法の選択・適用等、評価の前提となる基礎資料の取捨選択から結論に至るまでの過程に格別不合理な点は認められず、林地の価格の評価方法として合理性を有するものと認められる。また、E鑑定書の近隣地域①の標準的画地の比準価格76万円とそれに対応する地域のF1丁目地内のA(林)-3(F1丁目513番1)の基準地価格116万円を近隣地域④の標準的画地の比準価格60万円及び同⑤の標準的画地の比準価格47万円とそれに対応する地域のG2丁目所在の基準山林(標準山林11)についての精通者意見(平均64万3750円)を、近隣地域⑥の標準的画地の比準価格80万円とそれに対応する地域のH8丁目所在のA(林)-11(H8丁目731番1)の基準地価格129万円を、それぞれ、価格時点の相違に伴う地価の下落を念頭において比較してみても、E鑑定書の比準価格が不当に高額になっているなど、その試算価格の合理性に疑問を抱かせる事情はうかがわれない。したがって、賦課期日(平成9年1月1日)における本件各山林の適正な時価(客観的な交換価値)は、別紙1のE鑑定書の鑑定評価額のとおりであると認めるのが相当であり、この認定を妨げるに足りる証拠はない。
そうすると、本件各山林の平成9年度の登録価格(本件各決定に係る登録価格)は、別紙3のとおり、いずれも、その賦課期日における適正な時価(客観的な交換価値)の4.76%から7.41%にすぎない(換言すれば、本件各山林の適正な時価は、その登録価格の約13倍から約20倍に上る。)から、本件各山林の平成9年度の登録価格がその賦課期日における適正な時価(客観的な交換価値)以下であることは明らかというべきである。
(2)そして、前記1のとおり、評価基準は、大量に存在する固定資産について、それぞれ個別の評価をすることなく、短期間のうちに可及的に適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準を定めたものであるから、評価基準の定める山林の評価方法(前記法令の定め等参照)が適正な時価への接近方法として一般的な合理性を有するものであれば、その適用によって算定される本件各山林の評価額は、上記認定の鑑定評価額と近似すべきものである。したがって、仮に、本件各山林の平成9年度の登録価格の決定について評価基準の定める方法によって行われていない違法があったとしても、在るべき評価基準の定める方法を正しく適用して算定した場合の本件各山林の価格は、上記の登録価格を上回ることはあっても、これを下回ることはないものということができる(上記の登録価格を下回る価格になったとすれば、それは、評価基準の定める山林の評価方法が適正な時価への接近方法としての一般的な合理性を有していないか、その適用が誤っている結果であると考えられる。)。
これに対し、被控訴人らは、本件各山林の登録価格が適正な時価以下である保証は全くない旨主張するが、そのようにいうことができないことは、上記(1)の説示のほか、前記3(4)のとおり、山林の価格が高額の千葉県及び神奈川県を除いた関東地方の普通品等の用材林素地価格が、平成8年で13万6265円、平成9年で13万4766円であること、「下の中」品等の用材林素地価格の全国平均が、平成8年で5万1796円、平成9年で5万0323円であることからも、明らかというべきである。したがって、被控訴人らの上記主張は採用することができない。被控訴人らは、東京地方裁判所八王子支部の平成13年の競売物件の中に10アール当たりの価格が2万6021円の物件があった旨主張するが、仮に、そのような事例があったとしても、競売物件の価格には一般の不動産市場とは異なる競売不動産市場の特殊性等が色濃く反映するため、その評価においても大幅な減価がされるのが通例であり(宅地転用の可能性の乏しい山林であれば、なおさらである。)、上記事例をそのまま本件各山林の適正な時価を検討する上での売買実例と見るのは相当でないというべきであるから、上記事例の存在は、上記の認定判断を左右するものではない。
(3) また、被控訴人らは、本件各決定に係る登録価格が評価基準に従って決定されていないことにより著しい評価の不均衡が生じている旨主張する。
しかしながら、本件各山林の上記登録価格がその賦課期日における適正な時価(客観的な交換価値)の4.76%から7.41%にすぎないことは、上記(1)で説示したとおりであり、また、前記3(5)のとおり、A知事は、市町村間の評価の均衡上必要があると認めるときは、市町村長が評定した基準山林の適正な時価について所要の調整を行うものとされている(その前提となる指示平均価額については、自治大臣が、市町村間の評価の均衡上必要があるときは、所要の調整を行うようA知事に指示するものとされている。)ところ、A知事がB市の基準山林の適正な時価について行った平成9年度の所要の調整の結果は、B市長が決定した基準山林の価格と同額であったことからすれば、B市を含むAにおける山林の評価額は、B市と同程度の水準にあるものと推認することができるから、このような適正な時価(客観的な交換価値)の数パーセントにとどまる登録価格の間に、その決定方法が評価基準に適合しない結果として、何らかの不均衡が生じていたとしても、評価基準によって固定資産の評価を決定すべきものとした趣旨を没却するような著しい不均衡が生じているものと評価することはできないというべきである。
したがって、被控訴人らの上記主張も採用することができない。
5 以上によれば、本件各決定に係る登録価格は、その賦課期日における適正な時価(客観的な交換価値)以下であることが明らかなところ、前記2で指摘したとおり、上記登録価格の算定には、評価基準に適合しないと解する余地のある部分があり、仮に、これを目して、上記登録価格の決定に評価基準に適合しない違法があると解するとしても、前記2で認定判断したとおり、上記登録価格がおよそ評価基準に基づいて算定されたものと評価し得ないほどに評価基準に著しく違背して算定されたものということはできず、一方、評価基準を正しく適用すればその算定価格が上記登録価格を下回ることになるとは認められず、また、それにより評価基準によって固定資産の価格を決定すべきものとした趣旨を没却するような著しい評価の不均衡が生じているとも認められないから、本件各山林の固定資産税の納税義務者である被控訴人らは、上記の違法によって不利益を受けるものとはいえず、したがって、被控訴人らがこの違法を主張して本件各決定の取消しを求めることは、自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張するものであって許されないというべきである。
6 このほか、被控訴人らは、本件各決定が地方税法433条1項(15号改正前のもの。以下、同じ。)に違反する違法なものである旨主張し、本件各決定が被控訴人らの本件審査申出の日から30日以内にされていないことは、前記前提となる事実(4)から明らかである。
しかしながら、同法433条1項の規定は、いわゆる訓示規定であり、審査の申出を受けた日から30日を経過した後にされた審査の決定がそれだけで違法となるものではないと解すべきであるから、被控訴人らの上記主張は採用することができない。
7 よって、被控訴人らの請求はいずれも理由がないから、原判決を取り消して、これをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官・横山匡輝、裁判官・佐藤公美、同・萩本 修
(別紙省略)