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007

H15.11.21 最高裁

公文書非開示決定取消請求事件

平成15年11月21日判決言渡
平成12年(行ヒ)第334号公文書非開示決定取消請求事件
(原審 名古屋高等裁判所金沢支部 平成12年(行コ)第3号)

当事者の表示 省略

主   文

1 原判決中,平成6年度分の富山県立山土木事務所及び富山県魚津農地林務事務所の所属職員全員の出勤簿のうち,第1審判決主文第1,2項の別紙二以外の停職に関する情報が記載されている部分に関する部分を破棄する。
2 第1審判決中,前項の破棄部分につき上告人が被上告人に対し平成8年10月14日付けでした非開示決定を取り消した部分を取り消す。
3 前項の部分につき被上告人の請求を棄却する。
4 その余の本件上告を棄却する。
5 訴訟の総費用はこれを2分し,その1を上告人の,その余を被上告人の負担とする。

理   由
上告代理人島崎良夫,同橋本勇,同谷村憲二,同堀内和夫,同高畠良一,同佐々木外志,同中川誠,同小川正英,同草原庄一,同円仏利康,同寺井秀之,同小杉昭夫の上告受理申立て理由について

1 本件は,富山県の住民である被上告人が,上告人に対し,旧富山県情報公開条例(昭和61年富山県条例第51号。平成13年富山県条例第38号による全部改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,富山県立山土木事務所及び富山県魚津農地林務事務所の所属職員全員の平成6年度の出勤簿(以下「本件出勤簿」という。)等の開示を請求したところ,上告人から,本件出勤簿については,本件条例10条2号に該当することを理由としてその全部を非開示とする旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,その取消しを求めている事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 本件条例10条柱書は,「実施機関は,公文書の開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている場合においては,公文書の開示をしないことができる。」と規定し,その2号は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの。ただし,次に掲げる情報を除く。ア 法令等の定めるところにより,何人も閲覧することができる情報 イ 実施機関が作成し,又は取得した情報であって,公にすることを目的としているもの ウ 法令等の規定に基づく許可,認可,免許,届出等に際して実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示をすることが公益上必要であると認められるもの」と規定している。

(2) 本件出勤簿は,職員1人につき暦年ごとに1枚の書式となっており,「職」,「氏名」,「採用年月日」,「退職年月日」,年次休暇の「前年からの繰越日数」及び「翌年への繰越日数」の各欄と,1月1日から12月31日までの各日付欄から成っている。各日付欄には,出勤した職員が該当日欄に押印するほか,出張,休暇の取得,職務専念義務免除等の職員の勤務状況が次のような略記号を用いて記載される。すなわち,出張を示すものとして「出張」,「県外出張」,年次休暇の取得を示すものとして「年休」,「半休」,「時間休」等,特別休暇の取得を示すものとして「特休」,「忌引」,「夏期休暇」等,病気休暇の取得を示すものとして「病休」等,厚生事業等への参加を示すものとして「厚」等,職務専念義務の免除を受けたことを示すものとして「職免」等であり,その外に,介護休暇を取得した場合は「介護休暇」,育児休業の場合は「育児休業」,休職の発令があった場合は「休職」,停職処分を受けた場合は「停職」,正規の手続による承認を得ないで勤務しなかった場合は「欠勤」と記載される。本件出勤簿には,出勤の押印や出張の記載に重ねて「半休」や「時間休」の記載がされている場合等がある。

3 原審は,上記事実関係の下において,本件出勤簿のうち,① 年次休暇,病気休暇,特別休暇,介護休暇,育児休業及び休職の情報が記載されている部分並びに「前年からの繰越日数」及び「翌年への繰越日数」の各欄,② 出勤,出張,職務専念義務の免除,厚生事業への参加,停職及び欠勤の情報が記載されている部分と上記①の記載部分とが重なり合う部分について,上記①の情報は公務員の私生活にかかわる面が大きく,上記①及び②の情報は,本件条例10条2号の「個人に関する情報」に当たるから,これらを開示しないことができるが,それ以外の部分は開示すべきものであるとして,本件決定のうち,上記①及び②以外を非開示とした部分を取り消した第1審判決を相当として,上告人の控訴を棄却した。本件出勤簿のうち開示すべきものとされた部分に関する原審の判断は,次のとおりである。

(1) 「職」,「氏名」,「採用年月日」及び「退職年月日」の各欄の記載は,公務員の地位についての情報で,公務に関する情報であり,これを開示しても公務員個人のプライバシーを侵害するとはいえないから,個人に関する情報に該当しない。

(2) 出勤を示す印影及び出張に関する記載は公務に関する情報であることは明らかであり,これを開示しても公務員個人のプライバシーを侵害するとはいえないから,個人に関する情報に該当しない。

(3) 職務専念義務の免除及び厚生事業への参加の記載は,公務員たる地位ないしその義務にかかわる情報で,公務に関する情報である。そして,職務専念義務免除の事由や参加した厚生事業の具体的内容を表すものではなく,これを開示しても公務員個人のプライバシーを侵害するとはいえないから,個人に関する情報に該当しない。

(4) 停職は,地方公務員法29条に定める懲戒処分の一つであり,同法やこれに基づく条例等に違反した場合,職務上の義務に違反し又は職務を怠った場合,全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合にされるものであり,公務員であるがゆえに負うべき義務に違反したことを理由にされるものであって,停職の記載は,公務員たる地位に関する情報であり,公務に関する情報である。そして,停職の記載は,同法28条の定める分限処分の一つである休職の場合とは異なり,公務員の私生活にかかわる情報をも示すものとはいえず,その開示により当該公務員個人のプライバシーを侵害するとはいえないから,個人に関する情報に該当しない。

(5) 欠勤は,正規の手続による承認を得ることなく勤務しないことであり,休暇の場合と異なり,職務に従事していないことが法律や条例等の根拠に基づくものではなく,かつ,その記載においてその具体的理由を表す要素が全くない。欠勤の記載は,公務に関する情報であり,その開示により当該公務員個人のプライバシーを侵害するとはいえないから,個人に関する情報に該当しない。

4 しかしながら,原審の上記判断のうち,停職の記載以外の記載が本件条例10条2号の定める非開示情報に該当しないものとした部分は是認することができるが,停職の記載もこの非開示情報に該当せず,これを開示すべきものとした部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 本件出勤簿に記載された情報は,県の個々の職員の出勤,出張,休暇等の状況が1日単位で明らかになるように記載されたものであり,各日付欄に記載された各情報を含め,その「職」及び「氏名」の各欄の記載と結び付いており,特定の個人が識別され得る情報ということができる。しかしながら,本件条例の目的,趣旨からすれば,県の職員の公務遂行に関する情報は,当該職員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,当該職員が本件条例10条2号の個人に当たることを理由に非開示情報に該当するということはできないものと解すべきである。

(2) 本件出勤簿の記載のうち,「職」,「氏名」,「採用年月日」及び「退職年月日」の各欄の記載は,それ自体が職員の私事に関する情報を含むものではない。もっとも,「職」及び「氏名」の各欄の記載は,各日付欄の記載と結び付くことにより特定の個人を識別し得ることになるが,それ自体が職員の私事に関する情報を含むものでなく,非開示情報に該当しない公務遂行に関する情報と結び付いている以上,これを開示すべきである。

また,県の個々の職員の出勤及び出張に関する情報それ自体は,当該職員が公務に従事したことを示すものであり,これが当該職員の私事に関する情報を含まない公務遂行に関する情報であることは明らかである。他方,個々の職員の休暇の種別,その原因ないし内容や取得状況を示す情報は,公務とは直接かかわりのない事柄であって,私事に関する情報ということができるが,公務に従事しなかったことそれ自体は,やはり公務遂行に関する情報としての面があるというべきである。そうすると,出勤及び出張に関する情報を開示することが,その反面として,それ以外の日に公務に従事しなかったこと自体を明らかにするとしても,公務に従事しなかった理由まで直ちに明らかになるわけではないから,私事に関する情報を開示することにはならないというべきである。

次に,公務遂行に当たっての基本的な義務である職務専念義務が免除されているか否かは,公務遂行に関する情報というべきであり,職務専念義務が免除された事由が厚生事業への参加であることが明らかになる場合であっても,その個別的内容までが明らかになるものでない以上,私事に関する情報とはいい難い。

さらに,欠勤は,休暇等の場合と異なり,正規の手続による承認を得ることなく公務に従事していないことを示すものであり,欠勤の理由は様々であるところ,その記載自体は欠勤の具体的理由を表すものではないから,これが私事に関する情報とはいい難い。

しかし,これらとは異なり,停職は,地方公務員法29条に定める懲戒処分の一つであって,職員が懲戒処分を受けたことは,公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず,公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから,私事に関する情報の面を含むものということができる。したがって,停職に関する情報は,本件条例10条2号の定める非開示情報に該当するというべきである。

5 以上説示したところによれば,本件決定のうち停職に関する情報が記載されている本件出勤簿中の部分についてこれを非開示とした部分に違法はない。論旨は,これと同旨をいう限度で理由がある。そうすると,上記部分に関する原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。原判決中,本件出勤簿のうち第1審判決主文第1,2項の別紙二以外の停職に関する情報が記載されている部分に関する部分は破棄を免れず,第1審判決中,同部分に係る部分を取り消して被上告人の請求を棄却すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

最高裁判所 第二小法廷

(裁判長裁判官・北川弘治,裁判官・福田 博,同・亀山継夫,同・梶谷 玄,同・滝井繁男)