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行政関連事件

005

H15.3.24 宮崎地裁

損害賠償請求事件

平成15年3月24日判決言渡
平成12年(行ウ)第2号損害賠償請求事件,同年(行ウ)第3号,第5号,第6号同参加申立事件
(口頭弁論終結日平成14年12月9日)

判   決

当事者別紙当事者目録記載のとおり

主   文

本件請求を棄却する。
訴訟費用は原告ら及び原告参加人らの負担とする。

事実及び理由
 第1 請求
被告は,宮崎県に対し,金60億円及びこれに対する平成12年6月23日から完済に至るまで年5分の割合の金員を支払え。

第2 事案の概要
本件は,宮崎県が主力銀行の融資停止を受け経済的苦境に陥った滞在型観光・リゾート施設シーガイアの運営会社の救済等を目的として行った補助金60億円の支出について,同県住民が,地方自治法232条の2に規定する「公益上必要がある場合」との要件を満たさない違法な公金支出であるとして,当該支出の際県知事の職にあった被告に対し,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法242条の2第1項4号に基づき,損害賠償を求めた事案である。

1 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いのない事実並びに乙4号証ないし乙7号証,乙36号証の1,2,乙48号証の1,乙64号証の1,2及び弁論の全趣旨により認定することができる事実である。

(1)当事者等
原告ら及び原告参加人ら(以下あわせて「原告ら」という。)は,宮崎県に住所を有する住民である。
被告は,平成11年7月18日に宮崎県知事に選出され,平成12年1月21日当時宮崎県知事の職にあった者である。

財団法人宮崎コンベンション・ビューロー(以下「宮崎ビューロー」という。)は,コンベンション(国際・国内の各種会議,大会,展示会等)の誘致,コンベンション主催者に対する支援等を行うことにより,宮崎県内におけるコンベンションの振興を図り,もって地域経済の活性化及び文化の向上に寄与することを目的に,宮崎県,宮崎市が民間企業と共に出資して昭和63年12月27日に設立された財団法人である。

(2)シーガイア
宮崎県は,同県における観光・リゾート産業の振興を図るため,総合保養地域整備法(以下「リゾート法」という。)に基づき,昭和63年7月に「宮崎・日南海岸リゾート構想」の承認を受けてこれを推進していた。シーガイアは,同構想を担う中核的施設として,宮崎市の一ツ葉地区に同法に基づく特定民間施設として建設された長期滞在型観光・リゾート施設である。

シーガイアは,45階建ての大規模リゾートホテル「ホテルオーシャン45」等の宿泊施設,5000人収容の大会議場「ワールドコンベンションセンター・サミット」等の会議・宴会施設,世界最大の全天候型開閉式室内ウォーターパーク「オーシャンドーム」を始めとするアミューズメントの各施設によって構成され,平成6年10月までに全施設が営業を開始した。

フェニックスリゾート株式会社(以下「リゾート社」という。)は,シーガイアの運営主体として,宮崎県も出資していわゆる第三セクター方式で昭和63年12月27日に設立された会社であり,資本金は3億円である。

リゾート社の関連会社には,宮崎市の一ツ葉地区で従前からホテル,ゴルフ場,動物園などを経営していたフェニックス国際観光株式会社(以下「国際観光社」という。)のほか,宮崎県南那珂郡北郷町でホテル,ゴルフ場,温泉,クア施設等を経営する北郷フェニックスリゾート社(平成元年6月28日設立。以下「北郷リゾート社」という。)等がある。

(3)本件公金支出
リゾート社は,開業当時から赤字を計上し,平成10年度において,借入金は約2600億円,累積赤字は約1115億円にも及んでいたが,主要な取引銀行である株式会社第一勧業銀行(以下「第一勧銀」という。)から融資を受けて運転資金を確保し営業を継続していた。

リゾート社は,平成11年9月,第一勧銀から,追加融資はできない旨の通知を受けて,運転資金を確保することが困難な見通しとなり,宮崎県に対し,支援を求めた。

宮崎県は,リゾート社への支援の枠組みとして,危機的な状況にある同県内の観光・リゾート産業を同時に支援していくための基金(目標額100億円)を宮崎ビューローに設置し,リゾート社にもこの基金を介して資金の支援をすることとした。

そして,平成11年12月18日に開催された定例県議会の本会議において,宮崎ビューローに,コンベンション施設等を運営する者に対する支援等を行うことにより,宮崎県内におけるコンベンションの振興を図り,もって地域経済の活性化及び文化の向上を図ることを目的として設置される国際コンベンション・リゾートみやざき振興基金(以下「振興基金」という。)を創設するために必要な経費として60億円を支出する旨の補正予算を可決した。

宮崎ビューローは,平成12年1月17日,宮崎県知事に対し,補助金の交付(申請額60億円)を申請し,宮崎県は,同月21日,宮崎ビューローに対し,国際コンベンション・リゾート宮崎振興事業補助金として60億円を支出した(以下「本件公金支出」という。)。

(4)宮崎ビューローからリゾート社に対する補助金支出
リゾート社は,平成12年1月18日,宮崎ビューローに対し,補助金(申請額58億円)の交付を申請した。
宮崎ビューローは,補助額を25億円とする宮崎県の認定に基づき,同年1月25日,リゾート社に対し,同年3月までの資金の不足額として25億円の補助金を支出した。

なお,同補助金の対象となる事業の期間は,順次変更され,最終的には平成13年9月までの資金不足額に対する補助に変更された。

(5)監査請求
原告らは,平成12年2月18日,本件公金支出は何ら公益上の必要がない違法・不当なものであると主張し,本件公金支出により宮崎県に与えた損害を賠償する措置を講ずるよう求める住民監査請求を行ったが,同年4月13日,宮崎県監査委員により棄却され,同年5月15日,本件訴訟を提起した。

(6)その後の経過
ア サミット外相会合の開催
平成12年7月12日,13日の2日間にわたり,九州・沖縄サミット外相会合(以下「サミット外相会合」という。)が,シーガイアの会議場(ワールドコンベンションセンター・サミット)を会場として開催された。

イ 会社更生手続の申立て
平成13年2月19日に,リゾート社は,国際観光社及び北郷リゾート社と共に宮崎地方裁判所に対して会社更生手続開始の申立てを行い,同年5月11日同手続が開始され,同年8月3日更生計画が認可された。そして,同年10月5日会社更生手続は終結した。

2 争点
本件の争点は,本件公金支出が地方自治法232条の2に規定する「公益上必要がある場合」の要件を満たしているか否かである。

(被告の主張)
(1)普通地方公共団体が補助金を交付することにつき公益上必要があるか否かについては,当該補助金が住民にもたらすであろう利益やその程度,当該普通地方公共団体が置かれた経済的,社会的状況等諸般の事情を勘案して総合的に判断すべきであり,その判断は,当該普通地方公共団体の裁量に委ねられており,その裁量を尊重することが地方自治の本旨に合致する。

したがって,補助金の支出を決定するにあたり,公益上必要な場合に該当する事実がないとか,著しく不公平であるとか,あるいは,その目的が法令に違反し,社会通念上著しく妥当性を欠いているなど,裁量権の範囲の逸脱又は裁量権の濫用がない限り,補助金の支出に関して違法の問題は生じないと解すべきである。

裁量権の逸脱・濫用の有無については,①補助事業実施の必要性があり,かつ,補助事業の実施が行政目的に合致(合目的性)していること,②補助事業実施が行政の公正性・公平性を阻害し,行政全体の均衡を損なわないこと,③補助事業実施によって有効な効果(有効性)を期待できること,④補助事業を実施するために財政運営上の支障がないことといった観点から判断されるべきである。

(2)本件公金支出の公益性
ア 本件公金支出の必要性及び合目的性
(ア)宮崎県における観光・リゾート産業の危機
a 観光・リゾート産業は,農林水産業と並び宮崎県発展の一翼を担う産業として位置づけられ,その振興は県政にとって最重要課題の1つとなっている。

宮崎県は昭和40年代には新婚旅行先として全国に知られ,観光・リゾート産業は宮崎県の基幹産業として位置づけられてきた。しかし,県外観光客数は昭和49年の520万人をピークに減少の傾向を続けた。これに対して,宮崎県は昭和58年に「亜熱帯性ベルトパーク実施構想」を策定し,さらに,リゾート法の施行を受けて,これを発展させた「宮崎・日南海岸リゾート構想」を策定し,同構想に基づく観光・リゾート産業の振興を行ってきた。シーガイアの建設は同構想の実現のための一環として行われたもので,シーガイアの評価は,宮崎県の観光,コンベンションの中核にあるものとして国際的にも認められている。

しかし,バブル経済崩壊後の不況は予想以上に長引き,平成10年の観光の動向をみると,観光客総数は横這いか,やや増加傾向にあるが,観光消費額の高い県外観光客数は,平成8年の574万人をピークに,平成10年には554万人となるなど,2年連続で減少しており,また,その間の県外観光客の観光消費額も,約76億円も減少しているなど厳しい状況となっている。このような状況の中,平成9年には大淀川河畔のホテル江南荘が,平成11年にはえびの高原ホテルがそれぞれ閉鎖されるなど,これまで宮崎県の観光を支えてきた伝統ある宿泊施設の灯が相次いで消える事態も生じ,宮崎県の観光・リゾート産業は,極めて憂慮すべき状態が続いていた。

さらに,宮崎県観光・リゾート産業の振興に大きな役割を果たしてきた従前からの観光関連施設や,リゾート社が運営するシーガイアが,共に大変厳しい経営状況となり,閉鎖の危機に瀕するに至った。

仮に,今回,補助金の支出を行わなかったとすれば,直ちにシーガイア等の宮崎県の主要な観光施設が閉鎖という事態に追い込まれ,宮崎県の観光・リゾート産業は回復不能の大打撃を受けるのは明らかであった。このことは,まさにこれまで先人が営々として築いてきた「観光・リゾート宮崎」の名を失うことであった。

b 観光・リゾート産業は,ホテル,旅館などのレジャー産業にとどまらず,土産物や食品加工などの製造業,小売業,運輸・通信産業,スポーツ産業,更に食材等を提供する農林水産業などあらゆる分野に波及効果があり,宮崎県経済に多大の影響を及ぼす裾野の広い総合産業である。

例えば,宮崎県における平成10年の観光消費額1099億円の他産業への経済波及効果(当該産業の経済活動によって,各産業の需要拡大が連鎖的に誘発されることによって生じる波及効果をいう。)をみると,農業に82億円,製造業に311億円,商業に213億円,運輸・通信業に199億円,サービス産業に461億円,その他159億円のあわせて1425億円であり,県内の様々な産業に幅広くその波及効果が及んでいる。

そのため,観光・リゾート産業の衰退は,単に同産業の衰退のみならず,他産業に大きな影響を与えることは必至である。

(イ)リゾート社に対する支援の必要性,合目的性
以下のとおり,シーガイアは,宮崎県の基幹産業の1つである観光・リゾート産業の再生に欠くことができず,かつ,あらゆる方面に多大の効果をもたらし,宮崎県経済全体に与える影響度も極めて大きいものであるから,その閉鎖を回避するための補助金の支出に必要性があることは明らかである。

a シーガイアの建設の効果
シーガイアの建設(リゾート社の施設建設投資額総額1620億円)による経済波及効果は2595億円にのぼると推定される。また,シーガイア建設に伴い,その周辺の社会資本の整備も促進され,県民はもとより国内外の人々にすばらしいリゾート環境を提供している。

b 大規模な雇用の場の創出
リゾート社の新卒者の新規採用者は,平成5年度が524人,6年度が594人,7年度が142人となっている。

リゾート社の従業員数は,平成7年が2067人となっているが,これは,平成2年から7年にかけて県全体で増加した就業者数2万1780人の9.5パーセントを占めている。また,厳しい経営状況にある平成12年4月においても,リゾート社だけで1396人,シーガイア関連会社全体にすると2807人を雇用している。これらのことは,シーガイアが雇用の場の創出と確保に大きな役割を果たしていることを示すものである。

c 宮崎県観光・リゾートの振興及び国際化の推進
宮崎県の平成10年観光客総数は約1231万人であり,シーガイア開業時の平成5年観光客総数約1103万人と比較しても,約128万人の増加を示している。一方,シーガイアの利用者数は314万人と,宮崎県の観光客総数に占める割合は大きなものとなっている。また,平成10年と平成5年の県内の主な観光地の観光客数をみても,宮崎県を代表する観光地の観光客数がいずれも増加しているが,これもシーガイアの観光客の増加に起因するものである。

さらに,外国人宿泊者数では,平成5年の約2万6000人から平成10年には約18万5000人と,7倍以上に増加している。中でも,台湾からの旅行者は,約5千人から約9万3千人,香港からの旅行者も,約5千人から約8万人と急増しており,これは,外国人宿泊者がシーガイアを目的として宮崎県を訪れていることを示している。

このように,シーガイアは宮崎県観光の国際化にも大きく貢献しているが,それとともに前述の外国人宿泊者数のうち,平成10年にシーガイア内の宿泊施設に宿泊した約6万9000人を差し引いた約11万6000人が,宮崎市内の大淀河畔を中心とした他の宿泊施設等に宿泊しており,シーガイアは県内宿泊施設の外国人宿泊者数の増加にも大きく寄与している。

d 国際会議都市宮崎の全世界への発信
宮崎県の100人以上のコンベンション開催数は,平成6年では216件であったものが,平成10年には312件となり,96件も増加している。中でも,平成6年には9件であった国際会議が,平成10年には20件と2倍以上に増加している。その中には,APEC電気通信ワーキンググループ会合など国際的にも重要なレベルの会議が含まれている。また、平成11年には,第8回全国ボランティアフェスティバルやグリーン博みやざき99国際シンポジウム世界花都市国際会議など宮崎県の福祉,文化の向上に寄与する会議も開催されている。平成12年には,サミット外相会合や太平洋・島サミットが開催され,国際会議の開催地としての宮崎を全世界に発信することができた。サミット終了後も,国際的に重要な会議が次々と開かれており,これもシーガイアがあればこそである。

また,平成12年3月,財団法人みやぎん経済研究所が試算した平成11年度における宮崎県で開催されたコンベンションの経済波及効果は,主催者,参加者などが直接支出した会場使用料や宿泊料などの直接的経済効果が約97億円,原材料を他産業から購入すること等や雇用者に対して支払われる賃金等によって生じる間接的経済効果が約162億円で,直接的効果に対して約1.7倍となっており,大きな波及効果をもたらすものとなっている。この他にも,数値にできない口コミによるPR効果やコンベンション出席者が再び宮崎県を訪れるリピーター効果などを含めると,更に波及効果は広がっていくとされている。このようにコンベンションは,宮崎県経済にとって大きな効果をもたらすものであり,宮崎県にとってコンベンション振興は重要な施策の1つともなっている。

e 宮崎の知名度アップと誘客効果
誘致宣伝の効果については,リゾート社が行った宣伝広告の費用が平成10年度だけで約10億円,平成5年度から平成10年度の累計で125億円にも及んでおり,宮崎県観光のイメージ・知名度アップに大きな貢献をしている。特に,国際観光において,宮崎県の外国人宿泊者数のほとんどを占める台湾,韓国,香港を対象にした人気のある九州ツアーでは,必ずシーガイアが含まれているとともに,これらツアーには,その他の宮崎県の代表的な観光地も含まれており,シーガイアは,宮崎県の外国人観光客の誘致に大きく貢献している。

また,国内観光では,関東,関西等への旅行商品企画において,シーガイアは,九州でハウステンボスと並ぶ滞在型旅行商品を企画できる代表的な観光・リゾート施設となっており,日南海岸と並び宮崎県への観光客誘致の大きな柱となっている。

さらに,リクルート社が平成12年1月に行った「九州・山口人気観光地調査」の「今年行きたい観光地ランキング」において,シーガイアは第4位となり,宮崎県の観光地では,右ランキング内で唯一ベスト10に入る施設となっている。

このように,国内及び国際観光の誘致宣伝において,シーガイアなくしては語れないというのが,ほとんど大多数の旅行商品企画会社の声となっており,シーガイアは宮崎県の観光客誘致においても,不可欠な存在となっている。

f 行政及び他産業への貢献
リゾート社の納税額は,平成10年度だけで17億円,会社設立時から平成10年度までの累計では87億円という大きな額になっており,行財政へ多大の貢献をしている。

また,関連産業への波及効果については,リゾート社への納入業者数は現在約550社にものぼり,シーガイアグループ全体では,約700社が取引を有している。このうち9割にあたる約650社が中小企業であり,宮崎県中小企業の振興にも,大きく寄与している。さらに,経済波及効果については,同社の売上高は平成10年度だけで193億円であるが,平成5年度から平成10年度の累計では1027億円にも及んでおり,これらシーガイアで生み出される消費は,農業はもとより,土産物を生産する製造業,さらには商業,運輸,通信業等と幅広い産業にその波及効果を及ぼしている。

さらに,宮崎県にとって,サミット外相会合,太平洋・島サミットの開催は,県史に残る事柄であり,このような国際会議が開催されたことにより,「国際コンベンション・リゾートみやざき」のイメージを全世界に強く印象づけることができたのであり,その振興を推進する宮崎県にとって,これらの会議の成功は重要な事項であった。

g リゾート社支援の必要性,合目的性
平成11年9月,第一勧銀からの新たな融資を受けることが困難となった時点では,リゾート社に対して,金融機関からの支援や新たな経営支援者を見つける時間がなく,法的解決策をとろうにもその実行は事実上不可能であり,シーガイア全体が直ちに廃業の危機に瀕することは明らかであった。

このような状況に直面し,同社は,平成11年10月,自主的な経営改善策を発表したが,これらの自助努力だけでは,危機を乗り越える策にはなり得ないことから,県に対し,最後の手段として,抜本的な経営改善計画を策定,実施するまでの間の支援を要請した。

県においては,同社をこのまま放置すれば,宮崎の経済全体に大きな混乱を招き,ひいては県民の多くに不利益をもたらすことになりかねないところ,このような事態を未然に防止することこそが行政としての果たすべき役割であると判断し,リゾート社が抜本的な経営改善計画を策定,実施して再建を図ることの支援を行うこととしたのである。

h 以上のように,今回のシーガイア支援は,単にリゾート社を支援するというのではなく,その支援がひいては宮崎県の観光・リゾート産業の振興はもとより,宮崎県経済の混乱の防止や雇用の場の確保による県民生活の安定につながるものであることから,まさに行政の目的に合致したものであり,その必要性,合目的性に何ら問題はない。

イ 本件公金支出の公正性,公平性
宮崎県はこれまでも毎年,県内産業の振興を目的として,農林水産業をはじめ,商工業,建設業等産業全般に対し,補助や出資又は無利子あるいは低利の貸付等各種の支援を行ってきており,その総額は平成11年度でみると本件の60億円を除き,約767億円にも達している。シーガイアや観光・リゾート産業に偏った支援を行ってはいない。

本件公金支出は,観光関係団体の要望はもとより,県民を代表する県議会の議決を経て行われたものであり,県,県議会,県民の三者が一体となって公正な手続のもとになされており,予算措置手続においても,地方自治法上の違法性はない。また,本件公金支出を受けて,基金を設置した宮崎ビューローからの民間事業者等への補助金支出についても,公正さが保たれている。

また,本件公金支出は,基幹産業の1つである観光・リゾート産業の置かれた厳しい状況から緊急に取り組む必要性があると判断し,産業振興の一環として行ったものであり,先に述べたとおり,観光・リゾート産業の振興はもちろんのこと,雇用の確保や地域経済への波及効果等広範囲にわたって大きな事業効果が得られるのであり,他産業への支援内容と比べて均衡を失するものでなく,適時的確な対応といえるのである。

このように,本件公金支出は,公正な手続のもとに支出されたものであると共に,また,その効果は他産業にも及ぶものであり,さらに,他産業の支援と比しても公平を欠くものではない。

ウ 本件公金支出の有効性,最小限度性
リゾート社は,25億円の補助金を受け,最終的には会社更生手続を経て,営業を継続しており,現在も前記のとおりの役割を果たしているもので,その支援が有効であったことは明らかである。

原告らは,平成11年9月の時点から会社更生手続開始の申立ての準備に入れば,本件公金支出の必要はなかった旨主張する。

しかし,本件において,会社更生手続が成功裏に終結したのは,約1年かけて経営改善策を策定し,経営再建のために資金を出すなどの支援をする企業等(以下「スポンサー」という。)を得るための前提条件を整えたことによるのであり,平成11年9月時点で何ら経営改善努力を行わず,会社更生手続開始の申立てをしても,破産手続に移り営業の継続ができなかった可能性が高かったことから,本件公金支出により,経営改善策を策定し実施する期間を確保する必要があったことは明らかである。

シーガイアに対する支出である58億円の根拠は,「貸借対照表推移」中の現金,預金が,平成11年12月末の約6億円から平成12年度末では,マイナスの約56億円までになることにより,この間の資金不足額として約62億円の不足が見込まれるところ,手持ち資金で補填可能な分を除いた約58億円が不足するとの説明をリゾート社から受け,平成11年度末までに約25億円,平成12年度上半期に約17億円,下半期に約16億円が必要になるものと判断したものであり,原告ら主張のとおり,金利分も含む内容となっているものの,金利も免除ないし猶予されない限り支払をしなければ営業継続が不可能になる以上,必要とする金額として計上するのは当然であり,最小限度の支出であったことは明らかである。

エ 財政運営上の支障の有無
(ア)宮崎県の財政状況
宮崎県においては,従来から歳入歳出の徹底した見直しにより財源の積極的な確保を図るとともに,限られた財源の重点的,効率的な配分を行いながら,社会経済情勢の変化に伴う新たな行政需要等に適時,適切に対応できるよう,中長期的視点に立った的確な財政運営に努めている。この結果,宮崎県は,これまで決算において実質収支(当該年度に属すべき収入と支出との実質的な差額で,いわば地方公共団体の純剰余又は純損失を意味するもの)が赤字になったことはない。

平成11年度においては,本件公金支出にあたり60億円の財源が必要となったが,この補正予算措置をした11月の時点で確実に見込める歳入財源があったことから,既に予算に計上されていた他の事業を中止するとか,縮小するといった影響は何ら生じなかった。

また,一方で,年度当初から職員意識の喚起に努め,年間を通じて歳入の確保及び歳出全般にわたる経費の徹底した節減等を行った結果,2月補正で約91億円,3月末の最終専決補正で約28億円の財源が捻出でき,将来の財政需要に備えて財政調整積立金等基金への積立等を行い,更に決算において,約19億9000万円の実質収支の黒字が確保できた。

このように宮崎県の財政状況は,決算においても健全性が保たれており,本件公金支出を行っても財政運営上の支障はない。

(イ)県債の状況等
宮崎県の一般会計の県債残高は,平成11年度末で約7452億円となっているが,地方交付税措置のある有利な県債の活用など財源措置の有利性に着目しながら事業の厳しい選択に努めた結果,県債残高の約6割は,地方交付税法に基づき,後年度に地方交付税上の措置がなされ,将来の財政負担の軽減が図られる予定である。

しかも,県債の元利償還(公債費)に対する財政負担が一定水準以上(起債制限比率20パーセント以上)になると,自治大臣の定める地方債許可方針により起債が制限されることとなるが,宮崎県は,平成10年度決算値で10.8パーセントであり,この点からみても財政運営上の支障はないといえる。

オ 以上のように,本件公金支出については,どの観点からみても法232条の2に規定する公益性が認められるものである。

(3)原告らの主張に対する反論
ア リゾート社の事業継続の可否の見通しについて
リゾート社の事業継続の可否の見通しについては,リゾート社の償却前営業赤字が年々削減されてきていることから,より一層の経営改善努力をすることで,収益力の向上は当然可能であると考えられること,支援企業のネットワークやノウハウを生かした集客力の強化が図られるなどの条件が整えば経営の黒字化,事業の継続は可能であるといえた。

現にリップルウッドホールディングスL.L.C(以下「リップルウッド社」という。)がスポンサーとなったことからいっても,この判断に誤りがなかったことが明らかである。したがって,事業の継続が可能であると判断して本件公金支出をしたことに違法はない。

イ 本件公金支出にかかる県議会への説明について
本件公金支出にかかる県議会への説明については,被告において,シーガイアの宮崎県の観光・リゾート産業における位置づけやその社会的,経済的な多大の効果,経営内容などの現状はもとより,抜本的経営改善策の策定,実施に必要な経費が58億円であること,さらに,基金を創設して,シーガイアのみならず,宮崎県観光・リゾート産業全体を支援していくことなど,あらゆることを十分に説明し理解されているのであるから,県議会に対し,十分な説明をしていることも明らかである。

ウ 宮崎ビューローを介して補助を行ったことについて
宮崎ビューローの役員及び評議員は,地元銀行や県観光協会,地元優良企業など県内各界の代表者等から構成されており,また,事務局組織においても,宮崎県から専務理事,事務局次長,企画,誘致課長の3名が,宮崎市からは常務理事兼事務局長が,地元企業から誘致部長がそれぞれ派遣されており,官民の優秀な職員から構成されている。

本件公金支出により宮崎ビューローに交付された補助金については,県及び同ビューローにおいて,補助金交付要綱及び国際コンベンション・リゾートみやざき振興基金事業実施規程等を定め,これら規程により,弁護士,公認会計士,税理士等の専門家から構成される国際コンベンション・リゾートみやざき振興基金審査会(以下「振興基金審査会」という。)の意見を参考に,県が認定を行い,同ビューローの理事会を経て適正に執行されており,補助金支出の公正性は確保されている。

また,基金に関する状況については,県議会可決後においても,その執行状況等を,商工建設常任委員会等を通じて,随時,県議会に報告を行っている。

検査体制については,県の監査委員によって,地方自治法199条7項の規定により監査を行うことができることとなっており,検査体制は十分に整っている。さらに,本件訴訟に先立つ住民監査請求による監査結果においても,本件公金支出の公正性が認められている。

このように,本件公金支出は,諸規程,県の認定等に基づき適正に支出されていることから,その公正性は十分確保されているとともに,検査体制においても,県の監査委員の監査により十分整備されている。

エ 第三セクターに関する指針との整合性について
第三セクターに関する指針(平成11年5月20日自治政第45号,以下「三セク指針」という。)は,地方公共団体の第三セクターへの一般的な関与のあり方を示したものであり,地方自治法245条の4における財政運営上の「技術的な助言」であって,地方自治法232条の2の解釈を示すものではなく,地方公共団体に対し,法的拘束力を持つものでも,またその実施についての義務を負わせているものでもない。

三セク指針は,事業を存続させるか否かの判断については経営状況に着目した評価のみならず,当該第三セクターが果たしている公共,公益的使命等行政的評価を加味した上で,総合的に検討されるべきであるとしている。

本件におけるリゾート社と県の関係においても,単に同社の経営の内容だけにとらわれるのではな<,同社のもたらす公共,公益的使命等をまさに総合的に検討した結果が今回の支援となったものである。

同社の経営的指標が悪いことは事実であるが,現在その経済効果は宮崎県になくてはならないものであり,また県が実現を目指している世界に誇れる「国際コンベンション・リゾートみやざき」実現のためには,不可欠な施設であることから,これに対する今回の支援は,この三セク指針の趣旨と全く整合するといわなければならない。

三セク指針の中の「債権債務関係整理にあたって,地方公共団体は出資の範囲内の負担(中略)に止まるというのが原則で,過度の負担を負うことのないようにすべき」との部分は,第三セクターの方式を断念する場合の留意すべき事項と解され,今回の支援は,シーガイアを存続させ,ひいては県全体の観光・リゾート産業の振興を図るための施策に基づくものであるから,同指針の引用は当たらない。

(原告らの主張)
本件公金支出には,補助金を支出すべき公益上の必要性は認められない。
(1)「公益上必要がある場合」の解釈について
地方公共団体の役割は,住民の福祉の増進を図ることを基本として,地域における行政を自主的かつ総合的に実施することにある。また,その事務の本質は,住民の福祉の増進に努めると共に,最小の経費で最大の効果をあげるようにしなければならない。公益上の必要性の解釈は,このような地方自治の本旨である住民の福祉の増進をもとに,憲法秩序,国民の現代社会における適正な生存のための諸種の権利,利益との関わりにおける直接の「住民の利益」との因果関係を具体的に明確にするものでなければならない。

地方公共団体が行う補助金の支出の対象とされるのは,主に私人,私企業等であり,しかもそれは無償の交付であるから,特定の私人,私企業だけに補助金の交付をする場合,補助金を受けられない者との間に不平等な状況が生じるおそれがある。しかも,補助金の財源は国民,県民の税金であるのに,これを費消するのは補助を受ける私人,私企業であるから,公金支出にあたってはとりわけ濫費の防止が図られ,住民に対する公開性が図られていなければならない。以上のような観点からみて,地方自治法第232条の2にいう公益上の必要性があるというためには,①地方公共団体に財政上の余裕があること,②公金の支出目的,趣旨が公益性を有すること,③補助の対象となる事業活動内容が地方公共団体やその住民の大部分の利益につながること,すなわち,補助対象者が住民の利益につながる公益活動を行い,補助金がその公益活動に役立つこと,④支出の方法,支出額が相当であること,すなわち,支出の使用目的が明確になっており,その目的に対して必要最小限度の方法,金額にすべきこと,⑤支出が行政の公正さを損なわず,特に,補助を受けられない者との間に不平等を生じないこと,⑥支出手続が適法になされ,その使用について事後的な検査,監視体制が十分に整備されていること等の点が認められなければならない。

したがって,本件公金支出が「公益上必要がある場合」にあたるといえるためには,①シーガイアの事業活動内容が県やその住民の大部分の利益につながること,すなわちシーガイアが住民の利益に直接つながる公益活動を行い,補助金がその公益活動に役立つ目的であること(公益性),②支出額が相当であること,すなわち補助金の使用目的が明確になっていて,その目的に比して必要最小限の方法,金額であること(支出額の相当性),③行政の公正さを損なわず,特に補助を受けられない者との間に不平等を生じないこと(公平性),④支出の方法が適切であること,すなわち支出手続が適法になされ,その使用について事後的な検査,監視体制が十分に整備されていること(手続の公開性),⑤県に財政上の余裕があること(財政運営上の相当性)の各要件を満たしていなければならない。

また,三セク指針は,厳しい経済状況のもと,経営破綻に陥っている第三セクターに対する財政支援を原則として禁じているものであり,寄附や補助が「公益上必要がある場合」になされたものといえるか否かの解釈基準を示すものといえる。

そして,地方公共団体の長による公益上の必要性の認定においては,地方公共団体の財産が住民から信託された公の財産であること,地方財政法8条所定の健全財政主義,さらに,地方自治法237条2項により,地方公共団体の財産の譲渡等について条例又は議会の議決を要するとされていることを考えると,裁量は認められるべきでない。

(2)個別的要件について
本件公金支出は,前記のいずれの要件も満たしておらず,「公益上必要がある場合」にあたらないことは明らかである。
ア シーガイアの自体の公益性
(ア)本件公金支出の公益性の判断においては,シーガイアの営む事業自体に公益性がなければならないというべきである。シーガイアは,営利目的の観光娯楽産業を営む株式会社であるリゾート社により経営されておりその事業内容自体に公益性は認められない。

リゾート社は,主として県外客を対象に,高層ホテル,ドーム型人工海浜プール,高級ゴルフ場を中心とする観光娯楽施設において,テニス,ゴルフのプレー,ホテルの宿泊と食事,人工海浜プールでの遊泳,会議の開催等を提供する営利事業をしている会社であり,県民全体の生活や福祉に直接的に役立つものではなく,公共事業でも公益事業でもない。

しかも,利用料金も全体として高いため,県民が長期滞在して気軽に利用できる施設ではない。

このように,リゾート社は宮崎県が担うべき公益目的実現のための諸活動とは全く無関係な純然たる営利企業であり,その事業内容は宮崎県民の福祉増進とは全く無関係である。

(イ)被告は,シーガイアの行政及び他産業への貢献等の事情を考慮すればシーガイアの閉鎖を回避するための補助金の支出の公益性は認められるとする。
しかし,本件公金支出の公益性の判断においては,そのような間接的な事情を考慮することは相当ではない。

公益性の解釈にこのような論理を持ち込むことになれば,県内の大半の有力企業は,その程度,規模の大きさに違いはあれ県内の産業の振興と雇用の創出,確保に貢献している以上,おしなべて公益性を認め,公金支出の対象としなければならないことになり,公金支出の歯止めがきかなくなってしまう。

この点について,被告としてはリゾート社の営業の規模の大きさを考慮する必要があるとするようであるが,このような考え方では企業の規模が一定以上大きければ公益性が認められるということとなる一方,規模が小さければ公益性が否定されるということになりかねず,公金支出の対象としての公益性を考える上では極めて不公平なこととなり,明らかに不当である。

さらに,被告が主張する個別的な事情についても,以下のとおり,何ら理由はないものといえる。

a シーガイア建設の効果について
被告の主張するシーガイア建設の効果は,過去の経済波及効果にすぎず,しかもその利益は県外の建設大手会社に帰属しているから,消費その他に及ぼす影響はそれほど大きいとは考えられない。

また,被告はシーガイア建設に伴い,シーガイア周辺の社会資本の整備の促進,すばらしいリゾート環境の提供を主張するが,一方でシーガイア建設により10万本の松林が伐採され,市民の憩いの場,美しい樹林としての景観などが破壊されたことも間違いなく,また,リゾート環境整備のために,道路網の建設費をはじめ,マリーナや人工ビーチの投資など,公共事業の莫大な拡張が行われ,10年間で公共投資総額1500億円にものぼり,県民1人あたりの財政支出の負担割合が大きく増大している。県民所得全国最下位に近い宮崎県民に負担をかけることは,この施設を利用する力を持たない県民を犠牲にして,金持ちの県外,国外の人々への快適なリゾート環境を提供するという矛盾,悪循環を呈している。

b 大規模な雇用の場の創出について
被告は,シーガイアが雇用の場の創出,確保に大きな役割を果たしている旨主張するが,そのように言い切れるのか疑問である。

宮崎県の就業者数は,平成2年から平成7年にかけて2万1780人増加しているが,リゾート社の従業員数2067人(平成7年)のうち平成5年ないし平成7年の新卒者採用は1260人であり,それ以外の807人は従前より他社で雇用されていた者であるから増加人数には加えるべきでない。よって,増加就業者数のうちリゾート社の貢献割合は5.8%であり,被告主張の9.5%は誇大な数字である。

しかも,リゾート社の平成12年4月1日現在の従業員数は1396人であり平成7年の2067人から671人も減少している。

なお,被告は,シーガイアグループ全体で約3000人雇用していると主張するが,もともとあった国際観光社等の従業員数を含めて主張するのは,不当である。

c 宮崎県観光・リゾートの振興及び国際化の推進について
シーガイアの経営が成り立たないことは当初からわかっていたことであり,また,その利用料金や内容からしても県民を対象とした施設ではないのであって,「観光・リゾート再浮揚の核」となることを期待したり,「ゆとりある国民生活の実現,地域振興を図るという使命」を担わせることはおよそ不可能なことであった。

他の産業や経済等への効果についても,シーガイアをつくることで他のホテル,ゴルフ場にマイナスとなっている面,例えば客がホテルの客室数の増加の割合ほどには増えず,他のホテルが客を取られる結果ホテルを閉めざるを得ないところもでてくるし,既に存在するゴルフ場,特に郡部にあるゴルフ場は大変困難になってくる等もあり,宮崎県経済にとっては,プラスマイナスするとトータルとしては変わらない。シーガイアがなければ他の企業による施設に雇用や客が確保される面があると同時に,県民とはあまり縁のないシーガイアでなく,県民に密着した地域の個性を生かした観光が発展することで,地道な関連の経済発展が望める面があるのではないかと思われる。

被告はシーガイアが宮崎県観光・リゾートの核としてその振興及び国際化の推進に寄与していると主張するが,以下にその内容を検討してみるとそのようにはいえないことがわかる。

まず,平成10年の観光客総数約1231万人のうちシーガイアの観光客は約314万人でその割合が大きいというが,逆にシーガイアに来なかった観光客が917万人いることを示している。また,平成5年の観光客数約1103万人から約128万人も増加しているというが,128万人はシーガイアに来た人数の2分の1以下であり,シーガイアが他の観光地の客を奪っただけではないかと考えられる。

被告は県内の他の主要な観光地の観光客数が平成5年から平成10年にかけて軒並み増加しており,これもシーガイアの観光客の増加に起因するという。しかし,そもそもオーシャンドームの当初の利用者目標は350万人であったところ,実績は125万人を最高として平成11年には80万人を割っている。このように,利用者数が最高となっている時でも3分の1の達成状況であり,シーガイア独自の集客力は限界状況である。シーガイアヘの観光客が誘因となって他の観光地への観光客が増加したとする見解は他の要因をみない誤りをおかすものである。

他の観光地の観光客の増加は,各地の努力はもちろんだが,株式会社日本エアシステム及び日本航空株式会社の宮崎空港への就航,航空会社のパック旅行の効果,九州自動車道開通の効果が大きいことが県の観光動向調査にも指摘されている。

また,外国人宿泊者についても,台湾,香港を除く外国人宿泊者数はむしろ減少している。そして,台湾,香港からの観光客も,平成11年及び平成12年には大幅に減少しており,リピート効果のないことを示している。

また,ホテルの動向について,他のホテルでは平成5年をピークにして年々客が減少し,老舗の江南荘が廃業し,その他競売にかかったり,債務超過になったりしているホテルがあるなど,シーガイアが牽引車の役割を果たすどころか,シーガイアに客を取られた結果,他のホテルの衰亡を招いているともいえる状況がある。

シーガイアが125億円もの宣伝広告費を使い,作り出した宮崎県の観光イメージ,知名度は,「自然の太陽と緑」という本来の宮崎のイメージとは相違する「松林を切り倒してつくった自然破壊後の疑似海浜を売り物にした人工的なリゾートイメージ」であり,経営破綻,採算度外視の上失敗した施設として,いわば笑いものとしての知名度ではないかという声すら聞かれる。

宮崎県には地元の特色を生かした宮崎らしい観光地があり,シーガイアがなくても,自然と人情と歴史のある観光地を求めて来県する観光客は存在するのであって,シーガイアが宮崎の観光客誘致に不可欠な存在とはいえないことも明らかである。

d 国際会議都市としての発信,知名度アップと誘客効果について
平成10年当時,通産省(現在経済産業省)によって全国に45都市が国際会議観光都市に認定されていて,これら地域間でコンベンションの誘致競争が行われていたのであるから,需要以上の予測を元に施設建設をしても,誘致に失敗すれば大きな損失が生ずることになる。宮崎では宮崎ビューローが中心になって最大限の努力をして誘致し,ようやく被告主張の数の会議が行われたものであるが,限られたパイをめぐる競争であり,会議数が増え続ける保障はなく,膨大な施設建設費の採算がとれるようになる見通しはない。

被告は太平洋・島サミット及びサミット外相会合の開催は県史に残る重要な事項であったと主張しているが,本末転倒である。宮崎県で開催する必然性はなかったし,そもそも経営的に成り立たない破産寸前のシーガイアを会議場とすることに無理があったというべきである。宮崎県としての威信を問題にするのであれば,県民の負担となる多額の補助金を出さなければ維持できない様な施設を会議場にするという無理をする必要はなく,福岡と沖縄に任せることもできたものである。

シーガイアにおいて太平洋・島サミット及びサミット外相会合を開催したことを起爆剤にして,国際的に認められた宮崎の名を普及させることで,シーガイアにスポンサーが現れることを期待し,その結果,観光宮崎の再生がかなうかもしれないといういわば賭けの上に賭けを重ねる投機的な考えのもとに補助金を支出したもので無責任というほかない。

e 行政及び他産業への貢献について
リゾート社の納税額は宮崎県や宮崎市がシーガイアのために投じた社会資本の総額からすると微々たるものである。

また,会社更生手続における債権者(納入業者等)への現実の配当はわずかであって,シーガイアの取引業者への影響は,平成11年の破産申請でも大差なく,単なる問題の先送りでしかなかった。

そして,シーガイアにおいて太平洋・島サミット及びサミット外相会合を開く必要がなかったことは前記のとおり明らかであるから,この点が,何らかの貢献になるとも認められない。

イ 本件公金支出の目的の公益性
(ア)本件公金支出の目的は,サミット外相会合開催のための時間を稼ぐことにあったことが明らかであり,支出目的自体公益性を欠いている。
すなわち,被告は,スポンサーが付いて初めてシーガイアの再建が可能になることを知っていながら平成12年8月までは肝心のスポンサー探しに着手しようともしていない。これは,本件公金支出が,スポンサーを捜すための期間を確保するために運転資金として必要であったためであるとの説明ぶ全くの虚構でしかないことを表している。

(イ)仮に,本件公金支出の目的が,リゾート社の再建にあるとしても,前記のとおりリゾート社に公益性が認められない以上,その目的に公益性はない。
 

ウ 本件公金支出の必要性及び支出額の相当性
(ア)必要性の欠如
本件において,平成12年1月の段階で,宮崎県が本件公金支出をする理由も必要性も全く存在していなかった。

被告は,本件公金支出の理由として,リゾート社の抜本的経営改善計画(再建のためのスポンサーの確保及び当該スポンサーの支援下での経営改善計画)を作成することを念頭に置いて,それまでの期間,リゾート社の経営の維持存続を図るために必要とされる資金として支出したとしている。

しかし,以下のとおり,第一勧銀の融資停止決定後の平成11年10月の時点で,リゾート社等には既に法的倒産手続をとる以外に選択の余地はなかったのであり,この時点で会社更生手続開始の申立ての準備に入り,平成12年1月に同申立てを行えば,本件公金支出をなす必要はなかった。

a リゾート社の再建には,法的倒産手続以外の方法がなかった。
リゾート社は,平成11年10月の時点で約2700億円という巨額の債務を抱えており,債権者の債権放棄という任意での再建手続によってこれを解消する見通しは全くなかった。すなわち,2700億円もの債務免除を受けた場合には,債務免除益に対する800億円近い税金が発生することとなってしまい,リゾート社がかかる税金を負担し得ないことはもちろん,スポンサーがこれを負担することも到底あり得ないことは明らかである。

また,既に第一勧銀が融資を停止している以上,再建に必要な新規融資を得られる見通しは全くなかった。

さらに,仮に再建するのであれば,経営を黒字化する見通しを立てなければならないのであるが,リゾート社はその開業以来,毎年当期損失が200億円近い額に及んでおり,これを短期間で解消して黒字に転換する見通しが立つはずがなかったことも明らかである。

このように,任意の手続による再建が不可能なことは明らかであり,被告がこのような事情について認識を有していたことは明白である。

b 平成11年10月から会社更生手続開始の申立ての準備をすれば本件公金支出が不要であった。
リゾート社の会社更生手続開始の申立ての準備作業は,スポンサー探しに着手したのが平成12年8月の終わり頃からであるということから考えても,平成12年10月以降に着手されたと考えられる。そうすると,平成11年10月の時点から直ちに準備を開始していれば,平成12年1月には申立てが可能であったと考えられ,本件公金支出は不要であったというべきである。また,それ以前に,事実上主力銀行の融資が停止された状態に至った平成11年4月の時点から法的倒産手続を視野に入れて準備等を開始しておくべきであり,その段階で開始していれば補助金の支出が不要であったことは明らかである。

(イ)支出額の相当性の欠如
本件公金支出の額を決定した事情として,リゾート社が予想していた運転資金不足額があげられているが,その内訳の大半(51億1900万円)が利息の支払資金であり,金利の負担を税金でまかなおうというものであったのである。利息については,公金の支出を受ける場合当然に,支払を免れるための措置をとるべきであり,現にこれを免れているのであるから,金利負担部分については,不要な額の見積もりであり,最小限度の支出とはいえない。

エ 本件公金支出の公平性
本件においては,宮崎県の一般企業に対する補助金支出のあり方,補助金支出の基準と比べた時,以下のとおり著しい格差,不公平がある。
(ア)個別企業を対象とする補助金の例外性
宮崎県の農林水産関係の補助金は,農道建設や土地改良等に関連した自治体や各種団体(農協,漁協,森林組合等)への産業基盤整備事業,業界指導のための人件費等の公共的性格を持つものが主であり,個別農家に対しては貸付金がほとんどである。商工関係においても,各種商工団体への補助金はあっても,個別の中小企業の経営安定のための制度は利子の補助に止まる。すなわち,個別経営体の資金難は,個々の事業者の経営責任の問題であり補助金で対応しないのが大原則である。

(イ)企業立地促進補助制度との不均衡
県は,平成7年4月に企業立地促進補助金交付要綱を定め,地域経済の振興及び雇用拡大並びに産業構造の高度化の促進を目的として,企業に対する一定の補助金交付を認めたが,観光娯楽産業は対象外である。

同補助金は,新規雇用者1人あたり30万円を計算の基礎に,一般製造業,流通関連業への限度を2億円,先端業種,民間研究所,情報サービス業への限度額を5億円としている。また,補助対象施設は,初期投資に係る建物,構築物,設備装置,環境施設等とされており,運転資金は補助の対象とはされていない。

本件公金支出においては,新規立地に対するものではなく,先端業種でもない上,運転資金への補助である点で前記の場合との平等性について問題がある。また,仮にこれを捨象するとしても,シーガイアグループ全体での260O人の雇用者を前提としても1人あたりで30万円,合計7億8000万円が限度となるから,60億円という規模は明らかに過大であり,著しく不平等である。

また,融資制度との比較を考えても,産業立地貸付の制度でも有利子の融資限度額が20億円,運転資金の融資限度額が5000万円であり,これとの対比でも,返済さえ予定されていないのに60億円を拠出した本件公金支出は明らかに不平等である。

(ウ)経営危機にある企業を対象とする補助金の不均衡性
宮崎県では,経営危機にある企業に対して補助金を運転資金として出すことはこれまでなかったことからいって,本件公金支出は不均衡を免れない。また,宮崎県内において,厳しい経営状況が続いている有力企業が他にも複数あるが,本件公金支出が許されるとすると,他の企業の場合も補助金を交付しなければならないはずであるが,その点については検討もされていない。

オ 手続の公開性
(ア)必要かつ適正な検討の欠如
本件公金支出に際し,その必要性,最低必要額,支出の効果,目的達成の可能性等の前提となるリゾート社の経営改善の見通しについて必要かつ適正な検討がなされていない。

被告は,本件公金支出の可否を審理するための県議会において,平成13年3月期には償却前黒字の見込みであり,第三セクターとして存続する見通しである旨説明しており,また,本件公金支出を受けて平成13年3月期までに抜本的経営改善計画が策定,実施されれば,銀行融資の再開も可能という見通しまで述べ,そのような見込みがあることについて検討した旨の主張をしている。

しかしながら,そのような見通しを立てた根拠については,何ら具体的な分析がなされた形跡はない。

県議会における説明の資料であるリゾート社の損益計算書の推移に関する書類によると,平成12年3月期に償却前赤字を6億2000万円に抑え,平成13年3月期には償却前10億円の黒字となることが記載されている。しかし,そのためには,平成12年3月期には前期と比べ,入場者を10万人,売上を17億円増加させ,物件費及び人件費を合わせて11億円程度削減することが前提となっているところ,それまで4年連続で減り続けていた入場者,売上をどのようにして増加させるかという具体的な方策については何ら示されておらず,また,経費の削減についても,どのようにして入場者及び売上の増加と両立させるのかという具体的な方策が示されていない(入場者及び売上が増加した場合は経費も増加するのが自然である。)。

(イ)議会における虚偽の説明
被告は,本件公金支出の可否を審理するための県議会において,①リゾート社が平成13年3月期には償却前黒字の見込みであり,今後も第三セクターとして存続する見通しである旨の説明をしていること,②同社は自力での再建は不可能であり,いわゆるスポンサーが付くことによって初めて再建が可能になるとの認識を持ちながら,その点については一切説明していないこと,③同社の再建は会社更生法に基づく手続によるほかはないことを知りながら議会ではその点について何の説明もしていないことなど重大な内容について虚偽の説明をし,又は重要な事項を隠していたものであり,このような手法での県議会の議決が適法な手続を経たものといえないことは明らかである。

(ウ)宮崎ビューローを介して補助を行ったことについて
公金の支出に関しては,地方自治法232条の2の要件に合致しているか否かの厳格な審査を経た上での議会の承認が必要であり,その執行に関しては,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律があるなど,厳格な要件に基づく審査が行われることになっている。

ところが,本件では,補助金支出の目的がリゾート社に対する個別的経営支援であるにもかかわらず,基金の設置という迂回路を経由する形式をとることで,県が直接管理できない脱法的な方法をとっている。

以下のとおり,宮崎ビューローには公金の管理を適切に行えるだけの管理能力はなく,また支出された補助金の使途が適正であることについての検査監視体制が欠如している。

本来,リゾート社への支援に問題がないのであれば直接リゾート社へ支出するとの議案を提出して議会の承認を得ればよいはずであるのに,わざわざ,基金を設置するとの方法をとったのは,議会による監督を免れることをたくらんで故意にしたものとしか考えられない。

被告が主張する基金における補助金の支出の仕組みは,結局行政サイドの形式的なトリックである。

a 振興基金審査会の委員の任命方法も問題であり,また,同審査会の意見は単なる参考であって県はこれに拘束されるものではない。そもそも県が認定するということこそまさに行政行為そのものであり,県議会のチェックと全く異なるものである。

b 宮崎ビューローの役員及び評議員の構成は,多くがリゾート社の設立発起人,リゾート社の株主の企業の役員又は地元銀行,県観光協会,地元優良企業などの役員であり,要するにシーガイアに関係しこれを擁護する企業だけが関与する体制となっている。例えば,宮崎ビューロー理事長のSはリゾート社の設立発起人でありかつ株主である宮崎ガスの会長であり,リゾート社の副社長N1や元副社長Uも理事に名を連ねている。また,「各界」といっても,企業界以外の関係者はいない。このような体制では基金の支出,管理について公正な判断を期待できず,極めて問題である。

c 基金状況の議会への事後報告は何のチェックにもならない。

d このように振興基金支出のシステムは,本来の議会の承諾とは全く異なるもので,公金支出の法的適法性,公正性が確保されているとは到底いえない。

e 県の監査委員による監査については,公金支出について一般的に監査の対象になるのは当たり前であり,監査委員がいるからといって本件で具体的に検査体制が十分とはいえない。本件では丸投げの形で公金を宮崎ビューローの基金に支出しており,監査委員はリゾート社に対する具体的支出について全くタッチできない。

力 財政運営上の相当性
財政に余裕のある場合にはじめて,補助金等の交付は許されるのであり,財政に余裕がないのに,これに優先してリゾート社に対し補助金を支出すべきでないことは当然である。

宮崎県の負債は増加し続けており,宮崎県財政は悪化してきている。平成12年度では,累積負債が約7826億0100万円と見込まれており,県の一般会計総額を越えている。これは,県民1人あたりにして約66万6000円の負債を抱えている状況である。平成2年から平成8年にかけてみると,約5230億円の地方債が発行されている。かかる中で,経常収支比率,公債費負担比率,公債残高は悪化している。平成9年度決算では,公債費負担比率が16.8%,経常収支比率が81.8%である。

公債費負担比率は,借金財政の度合いを示す1つの指標とされ,15%が警戒ラインとされているところ,宮崎県の公債費負担比率は,前述の平成9年度決算で16.8%である。経常収支比率は,地方公共団体の財政構造の良否を判断する指標として用いられ,70~80%に分布するのが標準的とされているから,宮崎県の平成9年度の81.1%は,これを越えており,財政が硬直化していることは明らかである。

また,県の財政状況をみる場合,財政調整積立金などの基金の積立,取崩しの状況も検討する必要があり,例えば,平成11年度予算では,250億円の基金取崩しをしている。

自主財源比率の高さは,地方公共団体の財政状況における行政活動の自主性と安定性の指標となるところ,宮崎県は,自主財源比率が,平成11年で30.3%と,全国の中で最下位すれすれとされている。

さらに,地方公共団体の財政力を示す財政力指数についても,宮崎県は,平成11年で0.277であり,平成9年の0.285でさえ,全国平均0.481に遠く及ばないとされている。

なお,被告は,平成12年度末の見込みにおける県債発行残高が7826億100万円について,その6割が地方交付税で処理できるとするが,それが事実であるとしても,残る4割(約3000億円)については独自の償還原資の確保が必要であり,県財政に余裕がないことに変わりはない。

キ 三セク指針違反
三セク指針は,その趣旨に反する財政支援は適法ではあり得ないとの意味において地方自治法232条の2の解釈基準の重要な一部を占めるといえる。

三セク指針は,一方では地方公共団体における行財政改革の要請,他方では全国的な第三セクターの経営悪化という状況下で出されたものであるから,リゾート型第三セクターの経営悪化を意識してその経営に関する地方自治体の取り組み方を示したものであるというべきである。

本件公金支出は,三セク指針第4(経営悪化時の対応に当たっての留意事項)1(1)及び同3(2)に反している。

(ア)第4の1の(1)違反
リゾート社は,単年度黒字となっておらず,累積欠損金が1100億円を超え資本金額である3億円をはるかに超過しており,深刻な経営難の状況にあったから,問題を先送りすることなく,すみやかな経営状況の点検評価と事業存続の可否の検討,さらには積極的統廃合の検討が求められる状態(Cランク)にあったというべきである。

しかるに,宮崎県は,事業の十分な点検評価を行うことなく,本件公金支出を行っており,本条項に反することは明らかである。

(イ)第4の3の(2)違反
同条項においては,地方公共団体は,債権債務関係の整理に当たっては,出資,損失補償契約,あるいは事前のリスク分担の合意の範囲内に限定して負担を負うことを原則とし,過度の負担を負うことのないようにすべきものとしているところ,本件のように,経営状態が極めて悪化している場合に地方公共団体が当初予測していた負担を超える負担を積極的に負うことになる公金支出は,明らかに本条項の趣旨に反する。

第3 当裁判所の判断
1 本件公金支出の経過等
前記前提事実に,甲2号証,乙1号証,乙2号証,乙4号証ないし乙7号証,乙28号証,乙30号証,乙41号証,乙43号証,乙46号証,乙47号証,乙48号証の1,乙51号証,乙64号証の1,証人N2の証言及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実を認定することができる。

(1)観光・リゾート産業は,農林水産業及び工業と並び宮崎県発展の一翼を担う基幹産業として位置づけられ,その振興は県政にとって最重要課題の1つとされてきた。

宮崎県は,早くから自然環境を生かした観光地づくりが進められ,昭和40年代には新婚旅行地として全国に知られていた。しかし,沖縄の本土復帰により同地への旅行が容易になったことや海外旅行ブームなどの影響により,県外観光客数は昭和49年の520万人をピークにその後昭和57年まで減少傾向が続いた。

このような観光・リゾート産業の停滞した状況を打開するため,宮崎県は,昭和53年7月4日亜熱帯性ベルトパーク構想の策定に着手し,昭和58年3月22日には同構想の実施計画を策定して滞在型の保養地の形成により観光・リゾート産業の再浮揚を目指した。そこに,昭和62年6月9日,国民のための総合的な保養地域の整備を民間事業者の能力を活用しながら推進することを目的とするリゾート法が制定されたため,宮崎県は,前記構想を発展させ,21世紀に向け,少子高齢社会の到来や自由時間の増大,国際交流の拡大といった社会環境の変化に対応した新たな観光リゾート地の構築を目指す「宮崎・日南海岸リゾート構想」を策定するとともに,同法に基づく構想承認を受けるため国に申請し,昭和63年7月9日,同構想は国の第1次承認を受けた。

同構想は,宮崎市その他県南の3市5町に「国際海浜コンベンションリゾートゾーン」,「青島スポーツファミリーリゾートゾーン」,「保養,歴史リゾートゾーン」,「国際級海洋性リゾートゾーン」,「森林活用型リゾートゾーン」,「農林漁業体験型リゾートゾーン」など6つの重点整備地区をもうけ,日南海岸やその背後に広がる森林空間などの地域の特性を生かしながら,国際的な交流拠点の整備やスポーツレクリエーションの拠点づくりなどを行い,ゆとりと潤いのある生活空間を創造することをその内容としていた。

そして,宮崎県は,その基幹プロジェクトとして,宮崎市から佐土原町にかけての地域を重点整備地区とする「国際海浜コンベンションリゾートゾーン」の中心にある宮崎市の一ツ葉地区に,総合保養地としてホテルや各種のレジャー施設などを整備して,宮崎観光の核となる長期滞在型を可能とする総合的リゾート施設を構築し,その波及効果を全県に及ぼす構想のもとに,昭和63年12月27日にいわゆる第三セクター方式でリゾート社を設立し(宮崎県及び宮崎市から各7500万円,民間企業からは国際観光社外10社による合計1億5000万円が出資され,資本金3億円。),リゾート社を主体として同地にシーガイアの建設を進めた。

(2)シーガイアは,45階建ての大規模リゾートホテル「ホテルオーシャン45」等の宿泊施設,大規模かつ重要な国際会議を開催することが可能な5000人収容の会議場「ワールドコンベンションセンター・サミット」等の会議,宴会施設,世界最大の全天侯型開閉式室内ウォーターパーク「オーシャンドーム」を始めとするアミューズメントの各施設によって構成され,平成6年10月までに全施設が営業を開始し,国際観光社が,従前から隣接して開設していたホテル,ゴルフ場,動物園などと一体となって,コンベンション施設を併有した滞在型の観光・リゾート施設を形成した。

シーガイア関連会社の従業員数は,平成12年4月時点で,リゾート社のみで1396人,関連会社を含めて2807人であった。

リゾート社設立の昭和63年から施設全体の完成までは6年を要し,この間,建設資材の高騰等もあって,建築費用は,当初の見積もり額700億円を大きく超え,総投資額2000億円に達した。

(3)宮崎県がシーガイアを宮崎観光の中核的施設として位置づけ広報したこと及びリゾート社による宣伝の効果もあって,シーガイアは,県外の観光客に広く知られる宮崎観光を象徴する施設となった。

宮崎県における観光客数は,シーガイア完成以前の平成元年から平成5年までの5年間は,それぞれ,1001万2000人,1094万8000人,1122万5000人,1144万8000人,1103万2000人となっているのに対し,シーガイアの全面開業後の平成6年から平成10年までは,それぞれ,1144万8000人,1190万4000人,1217万9000人,1217万6000人,1231万人と推移している。また,外国人観光客数は,平成元年から平成5年までは,それぞれ,1万4066人,1万9258人,1万5701人,1万8012人,2万6016人と推移しているのに対し,平成6年から平成10年までは,2万8652人,3万9022人,10万6538人,17万4512人,18万5220人と推移している。

平成10年度において,シーガイアを訪れた観光客数は314万人であり,県内のその他の観光地(高千穂峡,西都原古墳,えびの高原,酒泉の杜,高千穂牧場,鵜戸神宮など)ついても前年より観光客数が増加している。

また,シーガイアは平成12年にされた九州(沖縄を除く。)・山口地域の「今年行きたい観光地ランキングBest60」アンケートで第4位にあげられ,宮崎県内の他の観光地は宮崎市内が第20位,高千穂が第30位,日南海岸が第36位に入るにとどまった。

宮崎県は,県内の観光・リゾート産業振興策として,宮崎ビューローを主体として,国際会議を含む国内外のコンベンションの誘致に力を入れていたが,シーガイアでは,平成11年までに,アジア欧州ヤングリーダーズシンポジウム(平成9年3月開催,25か国延べ600人出席),トヨタ世界大会宮崎'97(平成9年10月開催,122か国延べ4000人出席),第30回日韓・韓日経済人会議(平成10年4月開催,2か国延べ1000人出席),APEC第19回電気通信ワーキンググループ会合(平成11年3月開催,21か国延べ1250人出席)などの国際会議が開催された。さらに,平成12年に日本で開催されることとなった首脳級の国際会議である九州・沖縄サミットのうち外相会合をシーガイアを会場と予定して誘致することに成功し,同年7月12日及び13日,同会合が,シーガイア内のワールドコンベンションセンター・サミット他において開催された。また,平成12年4月にはシーガイアを会場として太平洋・島サミットが開催された。

(4)シーガイアは,開業当初こそオーシャンドームの珍しさもあって,県内外からの観光客を相当数集めることができたが,多数の従業員を採用したことによる人件費の高騰,当初,旅行代理店を通さず,独自の営業活動を展開したことによる営業経費の負担及び施設維持費の大きさなどから,開業初年度から営業赤字を生じさせていた。また,以後想定していたほどのリピート客を呼び込むことができず,来場者数が年々減少し,売上高においても前年度を下回るようになり,さらなる赤字を計上するに至った。

(5)リゾート社の各年度ごとの利用客数,売上高,営業損失,当期損失の各内容は以下のとおりである。

       利用客数    売上高     営業損失    償却前損失    当期損失

平成 6年度  2,009   14,334    7,012    12,597    19,850

平成 7年度  2,852   21,923    5,368    12,984    22,030

平成 8年度  2,774   20,548    4,558    11,809    20,733

平成 9年度  2,596   19,889    3,628    10,102    18,742

平成10年度  2,317   19,321    2,962     8,906      17,614

(単位は利用客数が1000人,その他は100万円)

リゾート社は,毎年赤字を累積し続け,平成10年度において,借入金約2600億円及び累積赤字約1115億円を計上しており,運転資金を第一勧銀からの融資に頼る状況にあった。

同社は,平成11年4月ころ,宮崎県に対し,支援の要請をしたが,同時点では,宮崎県は支援を断った。そのため,平成11年の7月ないし8月ころ,リゾート社代表者である佐藤棟良が,その経営していた株式会社旭洋を事実上処分することで50億円を用立て,運転資金を調達したが,これ以上の自力での資金調達は困難な状況となった。

(6)平成11年9月になって,リゾート社は,第一勧銀からこれ以上の新規融資をすることはできない旨通知を受け,運転資金の調達のめどが立たない状況となったため,宮崎県に対し,再度支援の要請をした。
被告は,同時点で,他社からも,都井岬観光ホテル,サボテン公園,こどものくに等の日南海岸の観光・リゾート産業の拠点となる施設の運営の窮状を訴えられたことから,宮崎県の観光・リゾート産業の振興のため,宮崎県内の主要な観光・リゾート施設全般を対象としてその運営を支援していくことが同時に必要であると考え,そのための基金を創設し,リゾート社についてもこの基金を介して支援する計画を立てた。

支援策を検討する過程で,被告は,リゾート社については,スポンサーを得ることが経営再建のため不可欠であること,同社の再建の方法としては,多額の負債について任意整理の方法によって処理することが望ましいが,法的整理の方法によらざるを得ない可能性も相当程度存在することを認識していた。その上で,スポンサーが得られる見通しとしては,シーガイアの設備が高水準であることからすれば確実であると判断し,かつ,スポンサーを探すための期間として1年程度を見込めば十分であるとの判断のもとに,平成12年度末を期限として,同社がスポンサーを見つけることを前提とする抜本的な経営改善計画を策定,実施するまでに不足すると見込まれた事業の運転資金を支援することを決定した。支援を行う運転資金の額については,同社の売上額から推計した経済波及効果の額(約59億円)を上限とする補助基準のもとに,リゾート社から,同社の平成11年度の事業実績に基づく平成12年1月ないし3月の資金需要の予測及び未実施であった平成12年度の事業計画に基づく平成12年4月ないし平成13年3月の資金需要の予測の説明を受け,これらの予測に基づき,不足すると見込まれた運転資金額58億円(平成11年度末までに約25億円,平成12年度上半期に約17億円,下半期に約16億円)を予定したが,具体的な補助額は,リゾート社の経営状況を審査しながら基金からリゾート社に交付される補助金額を調整する方法により決定することを予定した。

なお,支援の方法としては,弁護士の意見を聴取した結果,資金の貸付による方法は不相当であり,補助金の方法によることが相当であると判断した。

また,スポンサー探しの時期については,シーガイアの経営不安を外部に明らかにすることによってサミット外相会合の開催に支障が生じないように配慮して,同会合終了後から開始することが同時点から予定されていた。

そして,他の観光・リゾート関連事業者への支援に必要な資金を含め,設立する基金の目標額を100億円と予定し,市町村や民間からも協力を仰ぎながら,危機的な状況にある宮崎県の観光・リゾート産業を県民一体となって支援していくため基金を創設し宮崎県がこの基金に拠出することを内容とするリゾート振興事業の予算60億円を含む平成11年度宮崎県一般会計補正予算案(第3号)を平成11年11月24日,定例県議会に提出し,基金の設立案については,同月28日,被告により定例県議会に提案された。

被告は,平成11年12月7日に行われた県議会での一般質問において,シーガイアの経済波及効果は大きく,本件にとって必要不可欠な施設であるとの見解を示し,支援は今回限りとする趣旨の答弁をし,また,当時の商工労働部長であるN2(以下「N2部長」という。)は,基金からリゾート社への補助額が50億円から60億円程度になること,この金額は,宮崎県経済に与える効果から算出した額を基準として,経営改善計画を策定又は実施するまでの期間,施設の運営に要する経費から算定するものであり,今後,同社の自助努力の状況や売上の状況をみながら,専門家などを交えた審査機関の審査を経て支出額を決めていくことになる旨の説明を行った。

被告は,平成11年12月9日の県議会において,基金創設による公的資金投入に踏み切ろうとする理由の1つとしてサミット外相会合に重大な影響を及ぼす旨の答弁をした。

また,N2部長は,平成11年12月13日に行われた県議会商エ建設常任委員会において,リゾート社への補助額を50億円ないし60億円とする根拠として,リゾート社の現金預金不足額が平成12年度は56億8600万円にふくらむことが予想され,この不足分がリゾート社にとって当面必要な資金と理解している旨説明した。

平成11年12月16日に行われた県議会商工建設常任委員会においては,宮崎県側から,リゾート社には平成12年3月までに25億円,同年上半期に17億円,同下半期に16億円の補助が行われる計画であることが明らかにされた。

県議会では全質問者16名中10名が本件基金拠出に関する質問を行い,商工建設常任委員会では,リゾート社の副社長であるN1及び宮崎ビューローの理事長であるSを招致して,予算審議では異例の参考人質問を行うなど,5日間にわたる審議を行い,平成11年12月17日の審議は,同月18日未明まで続けられた。そして,同日未明に商工建設常任委員会としての議決(可決)がなされ,同日,本会議でも賛成43票反対1票で前記予算案が可決された。

宮崎ビューローは,九州運輸局長に対して振興基金設置のための寄附行為の一部変更に関する認可申請を行い,平成12年1月13日同認可決定書の交付を受け,さらに,同日,国際コンベンション・リゾート宮崎振興基金事業実施規程及び国際コンベンション・リゾート宮崎振興基金補助事業実施要領を定めた。

宮崎県は,設立された基金による補助金交付の手続を規律するため,平成12年1月14日,国際コンベンション・リゾート宮崎振興事業補助金交付要綱を定めた。また,同月17日には,振興基金を活用して補助事業を行う際の補助対象者ごとの補助額の認定に係る意見等を求めるための第三者機関として,振興基金審査会の設置要綱を定め,同審査会を設置した。

平成12年1月17日,宮崎ビューロー理事長は,宮崎県知事に対し,補助金60億円の交付を申請し,同日,宮崎県知事は,同額の補助金の交付を決定し,同月21日,本件公金支出が行われた。

(7)リゾート社は,平成12年1月18日,宮崎ビューローに対し,補助金交付(申請額58億円)を申請し,宮崎ビューローは同日,宮崎県知事に対し,前記申請にかかる補助対象者及び補助額の認定依頼を行った。
宮崎県は,振興基金審査会から,平成12年1月21日,同年3月までの資金不足額は25億円と認められるとの意見の提出を受け,同日,宮崎ビューローに対し,同意見に従った認定の通知を行った。

宮崎ビューローは,同日,理事会において,リゾート社を補助対象者として,補助額を25億円とする旨を決定し(なお,同理事会において,リゾート社の利害関係人は除斥されていた。),平成12年1月25日,宮崎ビューローはリゾート社に対し補助金25億円を支出した。

リゾート社は,同補助金について,平成12年1月から3月までに12億4865万9368円を,同年4月から9月までに2億9014万3289円を,同年10月から平成13年3月までに,1億4206万4428円を,同年3月から9月までに8億1913万2915円を,運転資金等として費消した。

(8)リゾート社は,宮崎県に支援を要請するのと平行して経営改善計画の骨子の策定を開始し,経営改善委員会の会合を,同年12月26日から平成12年4月までに7回にわたり実施した。その検討内容は,①平成12年度中に,収益力の高い国際観光社を吸収合併して収益体質を改善すること,②施設群の選択(ホテルフェニックス,シーサイドホテルフェニックスの売却ないし閉鎖(転用)等),③県民に親しまれる施設づくり(県民料金の設定等),④価格設定の引き下げ,⑤コンベンション政策の重視,⑥内部体制改革(職員教育の徹底,人員の現場への集約)といったものであった。

そして,経営改善委員会において策定された計画の具体化を目的として経営改善推進委員会が設置され,平成12年5月から10月まで会合を8回開催した。その中で①基本料金の見直し(宿泊料金等の引き下げ等),②特色ある価格設定(子供宿泊料金,連泊プラン等の設定),③シーガイアの魅力増加(商品企画室を設立,ターゲットを明確にした魅力ある商品の提供等),④県民に愛されるシーガイアづくり(お客様センターの新設等),⑤営業力強化のための施策(シーガイアギフト券の販売継続等),⑥人事政策(幹部層における新人事制度の導入,役職位の見直し,給与体系の見直し,55歳以上の処遇変更),⑦本部の縮小(本部人員320名であったのを240名に削減,本部組織のさらなる合理化及び効率化),⑧各種経費の圧縮(新価格設定に対応したコスト構造の見直し,営業,販売コストの削減,グループ全社をあげてのさらなる経費削減展開)といった事項が検討された。

(9)他方で,リゾート社は,宮崎県の支援のもとに,サミット外相会合が終わった後からスポンサーを探し,複数の候補者と交渉を行った。

リゾート社は,平成13年2月19日,国際観光社及び北郷リゾート社と共に宮崎地方裁判所に対して会社更生手続開始の申立てを行い,同年5月10日リップルウッド社と基本合意契約を締結し,同月11日更生手続が開始された。

更生管財人は,平成13年6月29日リップルウッド社とスポンサーシップ契約を締結し,同年7月11日,同社をスポンサーとして事業を継続し,負債を削減して一括弁済することを内容とする更生計画案を提出し,同年8月3日,更生計画が認可された。そして,更生計画の履行の完了により,平成13年10月5日会社更生手続は終了した。

(10)振興基金からの補助金は,シーガイア以外の案件にも支出されている。
振興基金には,平成13年3月31日の時点で宮崎県からの本件公金支出による60億円のほか,宮崎県市町村振興協会,宮崎市,串間市,日南市及び民間から合計6億5556万1300円の出捐があった。

串間市に所在する都井岬観光ホテルが経営難から存続の危機に瀕していたところ,平成12年7月28日同ホテルを運営する新会社として,都井岬リフレッシュ・リゾート株式会社が設立され,宮崎ビューローは,同年8月29日,同社に対して,抜本的な経営改善計画の実施期間である同年9月から平成15年3月までの運営に不足する経費のうち,平成12年度分として8700万円を補助金として交付した。

その他,日南市にあるサボテンハーブ園についても振興基金から補助金の交付がされている。

2 公益性の判断基準について
(1)地方自治法232条の2は,普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる旨規定し,地方公共団体が補助金を支出することができるのは,当該地方公共団体において,公益上必要がある場合に限られることを明らかにしている。

この要件の存否については,当該地方公共団体の長が,当該地方公共団体をめぐる社会的経済的状況と補助を行った場合の効果など諸般の事情を総合的に考慮し,個々の事案に即して認定すべきものであり,したがって,その認定には相応の裁量があると解され,その判断が著しく不合理で,裁量権を逸脱し又は濫用するものであると認められる場合にのみ違法となるものと解するのが相当である。

(2)もっとも,寄附金又は補助金の交付が税金を財源とする公金の支出であることからすれば,地方公共団体の長がする公益性の認定は,全くの自由裁量行為ではなく,考慮されるべき諸事情に照らして客観的に合理性が存在することが必要であり,①補助事業が,行政目的に合致すること,すなわち当該地方公共団体住民の福祉の向上を目的とすること(合目的性),②補助事業をすることにより,当該地方公共団体住民の福祉が向上する効果が生じ,補助事業をしなければ同効果は生じないという関係にあること(有効性,必要性),③補助事業の対象者とそうでない者との間の公平を失しないこと(公平性),④補助事業の実施にあたり,手続的な違法がないこと(手続の適法性),⑤当該地方公共団体の財政運営上支障がないこと(財政運営上の相当性)等の観点から,当該寄附又は補助をめぐる諸事情に照らして,客観的に合理性が認められない場合には,当該認定は,裁量権の逸脱又は濫用として,違法となると解すべきである。

(3)なお,原告らは,本件公金支出が三セク指針に違反するから違法である旨主張し,同指針に裁判規範性があると主張するものと解されるが,本件公金支出の違法性の有無は,あくまでも地方自治法232条の2にいう「公益上必要がある場合」に該当するか否かにより決すべきものであり,三セク指針は、その内容からして、「公益上必要がある場合」の解釈の一助をなすことは否定できないものの,それ自体としては裁判規範性がないものと解すべきである。

3 本件公金支出の合目的性について
(1)補助対象事業自体の公益性の要否
原告らは,シーガイアは営利目的の観光娯楽産業を営む株式会社であるリゾート社により経営されており,その事業内容自体に公益目的がないから,同社に対する本件公金支出は公益目的がないと主張する。

たしかに,リゾート社は私企業であって,事業内容それ自体に公益目的があるとは到底いえない。

しかしながら,地方自治法232条にいう「公益上必要がある場合」とは,補助金を支出する対象となる事業それ自体に公益目的がある場合に限定して解釈する必要はなく,対象となる事業が創設され,存続し,発展することにより,当該地方公共団体住民の福祉が維持ないし増進するという因果関係がある場合をも含む概念であるというべきである。

原告らは,このように解すると,県内の産業の振興及び雇用の創出に貢献している県内企業はおしなべて公金支出の対象となってしまい不当である旨主張するが,現実に県は産業振興,雇用創出などの住民福祉の向上のため,企業の誘致活動など予算措置を伴う諸般の施策をしているのであって,リゾート社のみに支援をしているわけではない。地方公共団体が,私企業ないし私人に対しても,その住民福祉への貢献への度合いに応じた補助を,補助金交付,出資,低利ないし無利子での貸付など様々の形で行うことは肯定されて然るべきである。

よって,原告らの前記主張は理由がない。

(2)本件公金支出の効果
ア 宮崎県の観光・リゾート産業の振興の構想
前記のとおり,シーガイアは,宮崎県にとって,衰退が懸念されていた基幹産業である観光・リゾート産業を振興するための構想において中核的な施設の1つとして位置づけられ,その建設の当否については批判の余地があるものの,既に宮崎県の観光・リゾート産業の基幹的施設として存在し,県外客からは宮崎観光の象徴的施設と認識されていたのであるから,シーガイアを存続させるための補助を行うことは,宮崎県の観光・リゾート産業の振興の構想を維持するために必要な施策であったということができる。

イ シーガイアの存在による宮崎県の観光,経済への効果
前記のとおりシーガイアは観光客から高い評価を受け,多数の観光客を集めていたこと,シーガイア開業後,宮崎県内の観光地を訪れた観光客数が1年あたり100万人程度増加し,外国人観光客数についても,明らかに増加していることからすれば,観光客数の増加については,新規航空便の就航,高速道路の開通等の要素も影響しているものの,シーガイアの存在が宮崎県に観光客を誘致するにあたり,相当程度大きな役割を果たしていたことが明らかである。

また,コンベンションは,その誘致によって多数の会議参加者がその家族を伴って滞在し,大口の宿泊者を確保できる上,参加者等が周辺を観光したり,周辺の店での飲食や土産品の購入等の消費活動を行うことによって開催地の観光関連産業に大きな利益をもたらす経済的効果を期待できるため,多くの観光・リゾート地が行政の支援をも受けながら,その誘致を競っており(公知の事実),宮崎県も,観光・リゾート産業振興のためにその誘致に力を入れていたところ,前記のとおり,多くの国際会議がシーガイアを会場として開催されており,シーガイアはコンベンション誘致のための重要な拠点であったということができる。

宮崎県の観光・リゾート産業が他の産業にもたらす経済波及効果は,宮崎県における平成10年の観光消費額1099億円に対して,農業に82億円,製造業に311億円,商業に213億円,運輸・通信業に199億円,サービス産業に461億円,その他159億円のあわせて1425億円と試算されており(乙15号証),平成11年度に宮崎県で開催されたコンベンションの経済波及効果は,主催者,参加者などが直接支出した会場使用料や宿泊料などの直接的経済効果が約97億円,原材料を他産業から購入すること等や雇用者に対して支払われる賃金等によって生じる間接的経済効果が約162億円と試算される(乙29号証)など,観光・リゾート産業の経済的波及効果が大きいことからすれば,シーガイアの存在は,観光産業にとどまらず県内の他の産業の振興に対しても相当程度の貢献があったと推定することができる。

さらに,シーガイア関連会社による雇用の創出,維持についても,前記のとおりリゾート社のみでも1396人の雇用が確保されており,宮崎県の経済に相当な貢献があったということができる。

ウ 以上によれば,シーガイアは,事業内容それ自体に公益目的があるとはいえないものの,また,事業の採算の見通しが甘かったと批判されるその建設自体の当否に関わらず,宮崎県の構想どおり,県外客に対しても大きな集客力を有する観光・リゾート施設として現実に機能し,宮崎県の産業,経済に大きく貢献する施設であったと認めることができる。

仮に,本件公金支出がされなかったとすると,遅くとも平成12年はじめころには,リゾート社の運転資金は枯渇し,営業を継続できない事態に至ったことは明らかである(会社更生手続又は民事再生手続については,手続の進行中の運転資金を確保できない以上,成算がない。)。

このような事態が発生すれば,宮崎県としての観光・リゾート産業を振興するための構想に重大な変更を余儀なくされる上,サミット外相会合や太平洋・島サミットといった重要な国際会議の開催に支障を来すことによってコンベンション誘致に不可欠な開催地としての信用が失われ,以後のコンベンションの誘致に支障を来すこと,そして,前記諸般の効果が失われ,観光客数の減少,雇用の喪失等を通じて宮崎県の産業,経済に相当に大きな有形無形の損失が発生することが懸念されたといえる。

(3)よって,本件公金支出は,シーガイアの営業による宮崎県内の産業,経済への波及効果を維持することによって住民の福祉を維持ないし増進することを目的とする補助として,行政目的に合致すると認めることができる。

(4)なお,原告らは,本件公金支出は,サミット外相会合を開催するまでリゾート社を延命すること自体を目的とするものである旨主張するが,宮崎県の当時の観光・リゾート産業振興のための構想においてシーガイアが中核的な施設として位置づけられていたこと及びシーガイアについて現実にスポンサー候補探しが行われ,再建のための法的整理の申立てにまで至っていることを考慮すると,本件公金支出がサミット外相会合の開催の確保のみを目的として行われたと認めることはできない。

4 有効性・必要性について
(1)具体的な経営改善計画が確定していない状況下での支援の可否
ア 被告の主張によれば,本件公金支出は,リゾート社が平成12年度を期限として抜本的な経営改善計画を立てることを前提に,その間の事業運転資金を補助するために行われたものであり,証人N2の証言によれば,具体的な再建計画が存在しない状況下で,経営改善の可否について宮崎県独自の分析的な検討を行うことなく,シーガイア施設が高い水準にあることから必ずスポンサーが現れるであろうという予測のもとに公金を支出した事実を認定することができる。

よって,本件公金支出の時点では,リゾート社について適切なスポンサーが出現せず又は実現可能な経営改善計画の立案ができない結果に終わる可能性が十分にあったというべきである。

しかし,シーガイアの宮崎県の産業,経済に対する波及効果の大きさとこの経営が廃止された場合の影響からすれば,リゾート社の経営改善が不可能であることが相当程度確実で,支援によっても単に廃業を引き延ばす効果があるにすぎないことが明らかでない限りは,相当な期間に限定の上で,経営改善計画の立案中の事業運転資金を支援することは,補助の有効性・必要性の観点から容認されると解すべきである。

リゾート社の経営改善については,甲51号証の意見書において指摘されているとおり,多額の利子を負担できるだけの営業利益をあげることは困難であったといえるから,経費を圧縮するなどして営業利益を黒字化することに加えて多額の債務に対する利子負担の圧縮のため,相当に多額の負債について免除を受けることが不可欠であったといえる。そして,前者については,売上高が減少していく中で,営業損失の額が毎年圧縮されてきていた経過からすれば,一部施設の閉鎖,売却又は転用などさらなる経営の合理化を行い,かつ,リゾート経営について十分なノウハウを有する企業等がスポンサーとなり経営に参入した場合には,単年度の営業黒字を達成する見込みは存在したといえるし,後者については,任意整理によるか法的整理によるかを問わず,多額の負債の免除を受けて経営を再建した企業が多数存在していること(公知の事実)及びシーガイアが宮崎県の観光・リゾート産業振興構想において重要な位置を占める施設であるため,その再建について債権者の協力が期待できたといえることから債務の免除を受け得ないと考えるべき根拠は存在していなかったといえる。

原告らがリゾート社の経営改善が不可能であったことの証拠として提出する意見書(甲51号証)は,債務が免除されないことを前提として経営改善が不可能であるとの結論を出しており,債務免除を前提とした経営改善が不可能であることの論証とはならず,その他,リゾート社の経営改善が不可能であったと認めるに足りる事情ないし証拠は存在しない。

そして,平成12年度末までとした経営改善計画の策定期限について,サミット外相会合め終了まではスポンサー候補探しをしないことを予定していた点(この点については後に検討する。)を考慮しない限り,不当に長期であるとまではいえない。

イ 本件公金支出は,サミット外相会合の終了までスポンサー候補探しを行わないことを前提として行われているところ,経営改善計画の早期策定の見地からは直ちにスポンサー候補探しを開始することが当然であり,直ちに開始していれば,結果として,会社更生手続開始の申立ても早まり,その分の公金支出が不要であったとの考え方もあり得るところである。

しかし,サミット外相会合以前の段階でスポンサー候補探しを開始した場合には,シーガイアを運営するリゾート社の極度の経営不安が公然化して,宮崎県において外相サミットが開催されない事態となり(特に,平成12年のサミットは,開催場所について激しい競争が繰り広げられた結果,首脳会合が沖縄県,蔵相会合が福岡県,外相会合が宮崎県において分散して開催されたという事情があったため,一会場で問題が発生した場合には当該会場で予定されていた会合が容易に他の会場に移されることが予想される政治状況にあった(公知の事実)。),コンベンション開催地としての宮崎県の信用が大きく損なわれ,将来のコンベンション誘致に多大な悪影響を残し,コンベンション誘致による観光・リゾート産業の振興という行政目的を阻害する懸念があったといえる。

そうすると,リゾート社がサミット外相会合終了までスポンサー候補探しを行わなかったことについては,正しい選択であったか否かについては疑問の余地があるものの,サミット外相会合の開催取消しによる損失も考慮せざるを得ない状況が存在した以上,このことにより,サミット外相会合終了までスポンサー候補探しを行わないことを前提として本件公金支出を行ったことを違法とすることはできない。

ウ よって,本件公金支出は,具体的な経営改善計画が確定していない状況下で行われているが,そのことによって公金支出の有効性・必要性は否定されない。

(2)早期に会社更生手続開始申立てをすることの可否
原告らは,リゾート社が第一勧銀からの新規融資の停止を受けて直ちに準備を開始すれば,平成12年1月に会社更生手続開始の申立てをすることが可能であり,そうすれば本件公金支出は必要がなかった旨を主張する。

しかし,法的整理の方法による場合であっても,事業運転の資金がない限り営業を継続することはできないところ,リゾート社に会社更生手続に要する期間に見合う事業の運転資金が確保されていた事実を認めるに足りる証拠はないから,平成12年1月に会社更生手続開始の申立てをすることが可能であったとは認められない。

よって,原告らの前記主張は理由がない。

(3)倒産処理,第三セクターの維持と公益性
なお,リゾート社支援の公益性は,その事業の内容自体に公益性があることによるものではなく,その事業が宮崎県の産業,経済に及ぼす波及効果を維持することにあるから,同社の経営の改善においては,同社の事業の継続が重要な課題である。よって,その手法として法的整理(倒産)が用いられるかどうか,また,リゾート社が第三セクターとして維持されるかどうかは,本質的な問題ではなく,本件公金支出の公益性を左右しない。

(4)補助金額の当否
補助金額算定の根拠は前記のとおりであり,特に平成12年4月以降の運転資金の予測は未実施の事業計画に基づくものであって同時期における運転資金不足額が同計画どおりとなるのか確実性のある根拠に乏しいといえるが,将来の予測である以上事前に確実な根拠を求めることに限界があることは当然であり,リゾート社自身が策定した事業計画以上に確実に運転資金の不足額を予測すべき資料があったとは認められないこと,そして,平成13年3月までの予定不足額をリゾート社に対して一括して交付するのではなく,宮崎ビューローを介しつつも,最初は将来の見通しがより具体的に行える当初3か月分の予定不足額を交付した上で,運転資金の実情を審査しつつ,その後の交付額を決定していく仕組みが整備されていたことからすれば,本件補助金額の認定には一応の合理性があったと認めることができる。

原告らは,必要とされる費用として金利分も含めて計算していることは不当である旨主張する。

しかし,金利についても支払の免除ないし猶予を受けられない限り,支払を怠れば営業継続が不可能となることに変わりはないのであるから,免除ないし猶予してもらうことの目算が立っていない限り,金利分についても必要となる費用として計上するのは,不合理とはいえない。そして,当時,リゾート社が第一勧銀等金融機関から金利の支払の免除ないし猶予を受けることができる目算があったことを認めるに足りる証拠はないから,本件補助金額の算定に際して,必要とされる運転資金から金利分を除外しなかったことは不合理ではない。

(5)以上のとおり,本件公金支出は,前記3の行政目的を達成するために,運転資金に窮したリゾート社に対して合理的な金額の支援を行うものであって,同目的の達成のため有効かつ必要であることを認めることができ、これを否定すべき事情は存在しない。

5 公平性について
(1)地方公共団体が補助金を交付する場合に,これを受給できる者とそうでない者とが生じることは避けられないが,補助金の交付が公金を無償で配分する行政上の施策であることからすれば,交付内容や受給資格等の決定に際して,平等性が強く要請されることは当然である。したがって,特定の企業に補助金が交付される場合には,当該補助により実現すべき公益との関係において当該企業に当該補助金を交付することが,補助金を交付されない他企業又は当該企業と比較して少額の補助金を交付される他企業との関係において,容認するに足りる合理的な理由が存在する必要があり,合理的な理由を欠く場合には,当該補助金の支出は前記裁量の範囲を逸脱したものとして,「公益上必要がある場合」という要件を欠くことになると解すべきである。

(2)地方公共団体が産業振興のために補助事業を実施するについては,対象となる産業の選択及び実施する事業の内容及び規模について,住民の福祉の向上の観点から,当該地方公共団体の置かれた社会的,経済的状況や地域的特性等を総合的に考慮した上で,各案件の経済的波及効果の大きさに応じて比重をつけることには合理的な理由があるというべきであり,その結果,各産業ないし個別の案件の間で補助額に合理的な格差が生じることは是認できる。

したがって,各種の産業に対する個々の補助事業における補助の実施の有無や補助金額をそれぞれの補助の実施及びその補助額を決定するに際して考慮された諸事情を捨象して比較しその公平性を論じることは相当ではない。

原告らは,宮崎県が経営難に陥った県内の有力企業に運転資金を補助していないこと及び企業立地促進補助金交付要綱に基づく新規雇用者1人あたりの補助金交付額との比較によって,本件公金支出は公平性を失する旨の主張をするが,補助の実施及び補助金額の決定は,雇用の確保の要請のみによって決定されるわけではないから,このような比較によって本件公金支出の公平性を否定することはできない。なお,個別の経営体の資金難が原則として個々の事業者の経営責任の問題であることは原告らの主張するとおりであるが,個別の経営体に対して補助を行うこと自体に問題がないことは前記のとおりであり,そのことによって公平性が妨げられることはない。

宮崎県は,観光・リゾート産業を農林水産業及び工業と並ぶ基幹産業と位置づけており,県内に歴史,自然等に優れた観光資源が多数存在するという特質を生かして,県内の他の産業の発展のためにも波及効果を期待できる観光・リゾート産業の振興を図るという政策をとり,その振興のために重点的に補助事業を行うことは,相応の合理性を有しているというべきである。さらに,シーガイアの宮崎県の観光・リゾート産業における位置づけ及び事業の規模を考慮すれば,補助金額が相当に多額になることにも相応の合理性があるといえるから,本件公金支出におけるシーガイアヘの補助予定額が多額にのぼることをもって他の案件との公平に欠けると評価することはできない。

(3)ところで,本件公金支出は,シーガイアの事業の存続を主要な目的として行われたものであるが,制度的には,基金を設立して宮崎県内の主要な観光・リゾート施設の運営を支援していくこと(国際コンベンション・リゾートみやざき振興基金事業実施規程(乙54号証)によれば,県内の主要なコンベンション・リゾート施設又は地域の核となるコンベンション・リゾート施設を運営する民間事業者に対する補助事業の実施等)を目的とするものである。

そうすると,県内にはシーガイア以外にも多くの観光・リゾート産業があり,その中には経営難に陥っているものも存在するが,これらに対しても,その事業の性質,事業規模,県内産業振興に対する貢献度等に応じた支援がされていなければ,本件公金支出の公平性に疑念を差し挟む余地が生じる。

この点については,前記のとおり都井岬観光ホテル及びサボテンハーブ園について振興基金による補助金を交付した実例が存在しており,振興基金が目的どおりに宮崎県内の主要な観光・リゾート施設全般を対象として運用されている事実が認められるから,県内の他の観光・リゾート産業との関係で本件公金支出が公平を失するものということはできない。

(4)よって,本件公金支出について,公平性に関して裁量権の範囲の逸脱又は裁量権の濫用があったとは認められない。

6 手続的な適法性
(1)リゾート社の経営改善見込みに対する検討について
原告らは,リゾート社の経営改善見込みに対する検討が不十分であったことを本件公金支出の手続的な問題点として主張するが,これは,前記4(1)(具体的な経営改善計画が確定していない状況下での支援の可否)の場面で検討すれば足りる問題であり,手続的な適法性という観点からあらためて論ずる必要はない。

(2)本件公金支出の前提問題に関する議会での説明について
原告らは,被告がリゾート社の経営改善の手法等(第三セクターとしての存続,スポンサーの要否及び倒産手続の可能性)に関して虚偽の説明を行ったと主張する。

しかし,本件公金支出の目的は,シーガイアの存続を公益としてのリゾート社の経営改善に対する支援であって,経営改善の手法自体は,本質的な問題ではなく,議会における本件公金支出の成否を決定づけるほどの前提問題であったとは認められない。また,経営改善策として負債の削減に任意整理の手法を用いるか法的整理の手法を用いるかは,平成12年度末を期限として行われる経営改善計画の策定の過程において,債権者及びスポンサー候補者の意向も考慮して決定されるべき問題であって本件公金支出時点で確定した問題とはいえない(債務免除益の処理は任意整理によっても可能であり,法的整理の申立ては,必然ではなく,可能性が大きいという状況であったといえる。)うえ,さらに,スポンサーの導入や法的整理手続申立ての可能性に論及することは,リゾート社の経営不安を公然化し,倒産の風評被害によって,取引業者や観光客を離反させて営業の継続を不可能とする事態をもたらすおそれが大きかったといえる。

したがって,被告が,リゾート社の経営改善の手法等について,スポンサーの選定や会社更生等の法的整理手続を行う可能性について積極的に論及せずに,リゾート社からの報告による収益改善見込みや経営改善後も第三セクターとして存続する旨の認識を答弁したことについては,本件公金支出の目的に照らし,本件公金支出の成否を左右すべき事項とは認められない上,風評被害予防のためやむを得なかったといえるので,これをもって,本件公金支出の議会における審理又は決議の手続に違法があったとすることはできない。

(3)宮崎ビューローを介して補助金を交付したことの可否について
ア 本件公金支出60億円は,58億円をシーガイアの支援のため,その余をその他の宮崎県内の観光,リゾート施設の支援のため,それぞれ使用されることを予定して支出されたものであるが,まずこれを宮崎ビューローの管理する振興基金に拠出し,その後に,宮崎ビューローからシーガイア等に補助する金額を確定して補助金を交付する仕組みを採用している。

このように,補助金を宮崎県から直接補助対象者に交付することをせず,間接的に交付する仕組みを採用すること自体は,補助金交付の適法性を否定する理由とはならないが,このような仕組みを採用する場合に補助金の交付手続が適正であるというためには,宮崎県が拠出した補助金が,予定した補助対象者に対して公正に交付される仕組みが整備されていることが必要である。

イ 宮崎ビューローは,基本財産2億8000万円のうち2億1500万円を宮崎県及び宮崎市が拠出している財団法人であり,その組織は,事務局の幹部(事務局長及び次長)及び理事のうち副理事長,専務理事,常務理事(兼事務局長)が,宮崎県及び宮崎市から派遣されている(乙36号証の1,2,乙37号証)。振興基金による補助金の交付については,宮崎県が,国際コンベンション・リゾート宮崎振興事業補助金交付要綱を,宮崎ビューローが,国際コンベンション・リゾートみやざき振興基金事業実施規程及び国際コンベンション・リゾートみやざき振興基金補助事業実施要領を定めて,振興基金によって実施する補助事業の種類,補助対象者,補助対象経費について本件公金支出の趣旨に添って具体的に規定し,あわせて,補助額,申請手続,状況報告(補助事業者に対して運営状況に関する報告を求める権限),実績報告(補助事業者の決算報告義務)などを具体的に規定し,これらの規程により,補助金交付に際しては,宮崎県が弁護士,公認会計士,税理士などの専門家から構成される振興基金審査会の意見を参考に補助対象者及び補助額を認定し,これに基づいて,宮崎ビューローの理事会を経て,補助金が交付されることになっている(乙1号証,乙54号証,乙55号証及び弁論の全趣旨)。また,宮崎ビューローの出納は,地方自治法199条7項により,宮崎県の監査委員の監査の対象となる。

このような補助対象者,補助額等の決定の仕組みは,本件公金支出による拠出金を予定した補助対象者に対して公正に交付する仕組みとして十分であると認めることができる。

ウ 原告らは,前記仕組みは適正に機能しない旨主張する(前記第2,2原告らの主張(2)オ(ウ))が,原告らの主張のうち,宮崎ビューローの理事にリゾート社の関係者がいるという点については,リゾート社の利害関係人はリゾート社に対する補助金額の決定から除斥する運用が行われていたことからすれば問題にはならず,その他,原告らの主張に関して,宮崎ビューローを介する補助金の支出手続を不適切と認めるに足りる事実の存在は認められない。

エ よって,宮崎ビューローを介して補助金を交付したことについて,手続的適法性に欠けるところはない。

7 財政運営上の相当性
原告らは,宮崎県の経常費負担比率,公債費負担比率,財政力指数や自主財源比率等の指標に基づき,宮崎県の財政状況は悪化しており,その状況からみて,本件公金支出は過大なものであり,財政運営上の相当性を欠いていたと主張している。

しかし,財政状況が悪化しているという事実から直ちにすべての補助金の交付が許されないということはできず,財政状況と補助金交付の可否との関係は,当該補助金の交付により,予算の編成,執行等に重大な制約又は障害が及ぶ等,当該地方公共団体の財政に具体的な支障が生じるに至ったかどうかという観点から判断されるべきである。

原告ら指摘のとおり,宮崎県の財政に関する指標が標準値からはずれていることが,財政状況の悪化を示すものであるとしても,宮崎県の財政状況が予算の編成や執行に支障が生じるまでの状態に至っているとは認められず,また,本件公金支出による財政上の負担によって,宮崎県の財政に具体的な支障が生じたと認めるに足りる証拠はない。

よって,原告らが指摘する指標によっては宮崎県の財政状況が本件公金支出を不可とする程度まで悪化していると認めることはできず,また,本件公金支出による宮崎県の財政への支障も明らかでないから,原告らの前記主張は理由がない。

8 その他の論点について
(1)三セク指針違反について
前記のとおり,三セク指針は裁判規範性がなく,「公益上必要がある場合」の解釈の一助をなすにとどまるものであるが,本件公金支出は,平成12年度を期限としで経営改善計画が提出されることを前提とするものであって,経営難にある第三セクターの問題を先送りせず,抜本的な経営改善策を検討するか,すみやかに事業の存廃の検討を行うべきとする同指針第4の1(1)の趣旨に反するとはいえない。また,本件公金支出は,リゾート社の運転資金を支援するものであって,同社の債務関係を整理する局面で債務の一部を負担するものではないから,第三セクター方式を断念する場合の債権債務関係の整理にあたっての指針を定めた同指針第4の3(2)の対象となる案件ではない。

よって,三セク指針との関係で本件公金支出を違法と解する余地はない。

(2)以上のとおり,本件公金支出を違法とすべき事由の存在は認められない。

9 結論
以上のとおり,本件公金支出について,その政策判断の当否は格別,被告の公益性の認定に裁量権の範囲の逸脱又は裁量権の濫用があったと認めることはできない。

よって,本件請求は理由がないから,これを棄却する。

宮崎地方裁判所民事第2部
(裁判長裁判官・中山顕裕、裁判官・中村心、裁判官・橋本耕太郎)
(目録等省略)