争訟法務最前線

第75回(『地方自治職員研修』2013年3月号掲載分)

第一類、第二類医薬品のネット販売を一律に禁止する厚労省令の規定は、薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である

弁護士 羽根一成

今月の判例

第一類、第二類医薬品のネット販売を一律に禁止する厚労省令の規定は、薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である(最高裁平成25年1月11日判決)

新薬事法の定め

平成18年改正の新薬事法には、次のような規定があります。

1 厚労省令の定めるところにより、第一類医薬品については薬剤師が、第二類、第三類医薬品については薬剤師又は登録販売者が販売しなければならない(36条の5)。

2 第一類医薬品については、厚労省令の定めるところにより、薬剤師が情報提供しなければならない(36条の6第1項)。一般医薬品(第一類~第三類医薬品)の購入者から相談があったときは、厚労省令の定めるところにより、薬剤師又は登録販売者が情報提供しなければならない(同条3項)。

そして、厚労省令(薬事法施行規則)に、販売・情報提供は対面でしなければならないこと(159条の14第1項、2項、159条の15第1項1号、159条の17第1号、2号)、第三類医薬品以外は郵便等販売(ネット販売)をしてはならないこと(142条、15条の4第1項1号)が定められたことによって、第一類、第二類医薬品のネット販売は一律に禁止されることになります。

一般医薬品のネット販売

一般医薬品のネット販売については、従前これを禁止する規定がなく、平成18年頃までには多くの事業者が参入していたようです。

本判決は、賛否両論ある第一類、第二類医薬品のネット販売を厚労省令でもって一律に禁止するには、新薬事法中の諸規定から、ネット販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れることを要するとしたうえで、新薬事法の授権の趣旨が、第一類、第二類医薬品のネット販売を一律に禁止する旨の省令の制定までも委任するものと解するのは困難であるから、前記の厚労省令の規定は、第一類、第二類医薬品のネット販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法の趣旨に適合するものではなく、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効としています。

法律の委任

法律の委任については、憲法73条6号は法律で政令等に委任することも許されることを前提としているが、立法権を事実上放棄することになる包括的、白紙的委任は許されないと解されています。

委任の趣旨について法律に記載がなくても、裁判所は、立法過程における議論を広く斟酌しますので、白紙委任ゆえに無効という事態はほとんど生じ得ないと思います。本判決でも、「厚生労働省令の定めるところにより」について、白紙委任は問題とされず、委任の範囲を逸脱したのかどうかが問題とされています。

この委任の範囲を定めるに当たっても、立法過程における議論が広く斟酌されますが、本判決は、それでもなお、新薬事法の授権の趣旨が、第一類、第二類医薬品のネット販売を一律に禁止する旨の省令の制定までも委任するものと解するのは困難であるとしました。

法律の委任の考え方は、地方公共団体において、条例事項や住民の権利義務に関する事項を条例で規則に委任する場合も同様であり、実際に、規則、長への委任は多くの条例でみられます。斟酌しようにも条例制定過程における十分な議論がない、さらには白紙委任になってしまっている(最高裁平成22年9月10日判決参照)ということはないでしょうか。

最高裁における弁論と原判決破棄

なお、本件では、第一審は被告(行政側)勝訴、原審は原告(市民側)勝訴、被告から上告受理が申し立てられ、最高裁で口頭弁論が開かれました。一般に、最高裁で口頭弁論が開かれると、原判決破棄が予想されますが(民訴法319条、87条1項)、本件は、最高裁で口頭弁論が開かれながら、原判決が維持された珍しい例といえると思います。