争訟法務最前線

第87回(『地方自治職員研修』2014年3月号掲載分)

窓口対応への苦情とその対応方法

弁護士 羽根一成

今月の判例

窓口対応への苦情とその対応方法(東京地裁立川支部平成26年1月21日判決)

窓口対応への苦情

役所の窓口で、ともすれば不遜な態度で、やたらと不合理な要求や責任追及をしてくる人が、少なからず存在するようです。

本件は、生活保護の被保護者(受給者)が、職員から、子どものアルバイト収入の収入認定による生活保護の打ち切りを回避するために、世帯分離をするよう指導されたが、実際は生活保護が打ち切りになる状況ではなく、子どもの引越代が無駄になったこと、そのことに関連するやりとりや苦情対応のための話し合いの中で、職員から暴言を吐かれ、精神的苦痛を受けたことを理由として、国家賠償を請求した事案です。職員が世帯分離を指導するはずがなく、不合理な要求に対して助言・説明したものであること、不合理な責任追及を受けたのに対して毅然として対応したものであることなどを反論し、判決では概ね認められています。

対応方法

誤指導・暴言の有無は、結局のところ、言った言わないの水掛け論であり、代理人としての弁護士の腕の見せどころではあるのですが、トラブルに発展する気配のある苦情については、窓口を一本化し、記録を作成しておくことが肝要です。また、本件の事案を通して、次のことがうかがえます。

1 苦情者に迎合しない

穏便解決をしようとする思いが強いあまりに、苦情者の不合理な主張を否定せず、ともすればそれを肯定するような発言をしてしまうことがあります。中途半端に事情を知っているとやってしまいがちですが(100%嘘の苦情内容であることは稀)、それを訴訟で利用されると、大変苦慮することになります。

とくに、弁護士に相談した形跡があるあるいは弁護士が同席している場合には、十中八九録音されているものと思って、発言する必要があります。

2 謝罪文の是非

一般論としては、不用意に非を認めるような文書は出さないというのは正しいと思います。ただ、謝罪文を要求され、ある部分については非があることを認めざるを得ないという事案もあると思います。

本件では、適切でない単語を用いて発言したこと自体は否定しがたい事実であったため、そのことについては、市長名で謝罪文を出していたのですが、判決では、そのことも考慮して、暴言による精神的苦痛があるとしても「慰謝料を支払わなければならないとまではいえない」と評価されているのは参考になると思います。

3 言葉遣い

偉そうにする必要はありませんが、かといって、謙る必要もないと思います。不合理な要求や責任追及に対しては、社会人として常識ある対応であれば、毅然とした態度で接することを非難される理由はないはずです。個人的には、丁寧であることと謙ることは別のことであると思っています。

対行政訴訟の今後

今後は、こんなことで裁判までするのかという事件が増えていくと思います。その原因が、新司法試験になって、旧試験では考えられないレベルの合格者が輩出され、弁護士数が増えていることにあることは間違いないのですが、個人的には、法テラスや弁護士会の無料法律相談が増え、しかもそこで受任義務を課し、頼まれると断れないようにしていることが大きいように思います。

もっとも、情実ではなく裁判で白黒をつけるのが司法改革が目的とする法の支配ですし、訴えられる方にとっても、窓口で延々と苦情対応を強いられるのよりも、出るところに出てはっきりさせた方がいいように思います。