争訟法務最前線

第83回(『地方自治職員研修』2013年11月号掲載分)

1 登録価格が固定資産評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回る場合は、その登録価格は違法である。 2 独自の鑑定意見書を提出して、登録価格が客観的な交換価値を上回るということを直接主張・立証することはできない。

弁護士 羽根一成

今月の判例

1 登録価格が固定資産評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回る場合は、その登録価格は違法である。

2 独自の鑑定意見書を提出して、登録価格が客観的な交換価値を上回るということを直接主張・立証することはできない。

(最高裁平成25年7月12日判決)

登録価格が違法とされる場合

土地の固定資産税は、基準年度に係る賦課期日(1月1日)における「価格」で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたもの(登録価格)を課税標準とします(地方税法349条1項)。そして、「価格」とは「適正な時価」をいい(地方税法351条5号)、適正な時価とは正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解されます。したがって、登録価格が違法とされる場合の第一として、登録価格が客観的な交換価値を上回る場合があります(最高裁平成15年6月26日判決)。

また、市町村長は、「価格」を総務大臣の告示する固定資産評価基準によって決定しなければなりません(地方税法388条1項、403条1項)。そして、このことにより、固定資産税の課税において全国一律の統一的な固定資産評価基準に従って公平な評価を受ける利益が地方税法上保護されていると解されます。したがって、登録価格が違法とされる場合の第二として、登録価格が固定資産評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回る場合があります(本判決)。

登録価格が客観的な交換価値を上回る場合

登録価格が固定資産評価基準の定める評価方法に従って決定された価格である限り、その登録価格は、客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認されます(最高裁平成15年7月18日判決、最高裁平成21年6月5日判決)。

そして、客観的な交換価値は評価的な概念であり、鑑定評価は、一義的に算出され得るものではなく、性質上一定の幅のあり得るものであること、市町村が逐一独自の鑑定意見書の誤りを主張・立証しなければならないのでは、固定資産評価基準に基づき画一的、統一的な評価方法を定めることにより、大量の全国規模の固定資産税の課税標準に係る評価について、各市町村全体の評価の均衡を確保し、評価人の個人差による不均衡を解消することにより公平かつ効率的に処理しようとした地方税法の趣旨に反することから、登録価格に不服のある土地の所有名義人が独自の鑑定意見書を提出して、登録価格が客観的な交換価値を上回るということを直接主張・立証しても、上記推認は覆りません(本判決)。

したがって、登録価格に不服のある土地の所有名義人としては、登録価格が客観的な交換価値としての適正な時価を上回っていることを前提として、固定資産評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではないこと、又は、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができない特別な事情が存することを主張・立証しなければならないことになります(本判決)。これは容易なことではなく、登録価格が固定資産評価基準の定める評価方法に従って決定された価格である限り、事実上、登録価格が違法とされることはあまりないように思われます。

登録価格が評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回る場合

これは、評価基準の定める評価方法の当てはめにミスがあるのかどうかの問題です。電算処理が進んでいる現在の実務においては、単純な計算ミスは考えにくいので、所要の補正が適切にされているのかどうかが問題となり、本判決により、登録価格を巡る紛争は、この点に収斂されるように思われます(あるいは、土地価格が大幅に変動する時代には、固定資産評価基準の評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができない特別な事情の有無が問題となることは考えられるでしょうか)。