争訟法務最前線

第82回(『地方自治職員研修』2013年10月号掲載分)

滞納者以外の共有者も差押処分の取り消し訴訟の原告適格を有する。

弁護士 羽根一成

今月の判例

滞納者以外の共有者も差押処分の取消訴訟の原告適格を有する。(最高裁平成25年7月12日判決)

差押処分と原告適格

処分の取消訴訟を提起できるのは、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利害を有する者」(行訴法9条1項)、すなわち「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」(最高裁昭和53年3月14日判決)に限られます。

滞納者と他の者が1つの不動産を共有している場合、滞納処分として差し押さえるべき対象は当該不動産ではなく、滞納者の共有持分になりますので、一つの独立の所有権であるという共有持分権の法的性格からすれば、他の共有者が、差押処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるとは俄に考え難いところです。これに対して、本判決は、(1)滞納者に差押の処分禁止効が生じる結果、当該不動産の処分が制約を受け、他の共有者の権利が制限されること、(2)当該不動産の価値を著しく減耗させる使用・収益に関しては、他の共有者に制限が及ぶこと(国税徴収法69条1項但書・2項)という差押の法的効果を根拠として、他の共有者に、滞納者の不動産共有持分に対する差押処分の取消訴訟の原告適格を認めています。

不服申立てと執行停止

ところで、滞納処分については、その前提となる督促を含め、各段階で不服申立てをすることができ(地方税法19条)、その不服申立てがあったときは、決定又は裁決があるまでの間、差し押さえた財産の滞納処分による換価をすることができません(地方税法19条の7第1項但書)。

本件の如く、差押を対象とした不服申立てである場合は、手続の続行を停止し、棄却・却下の決定又は裁決があった時点で、手続を再開することになりますが、不服申立てが公売公告(国税徴収法95条)を対象とするものである場合は問題が生じます。というのは、手続の続行を停止している60日の間に(地方税法19条の9第1項)、公売公告に記載した参加申込期間、入札期間、開札の日時、売却決定の日時、売却代金の納付期限が経過してしまい、棄却・却下の裁決又は決定があった時点では、公売公告の記載内容が過去のものとなっていることがあるからです。

このような場合の対処方法としては、A従前の公売公告を取り消し、新規の公売公告をすることが考えられますが、新規の公売公告に対して別途不服申立てが可能となり、紛争が蒸し返されるおそれがあります。そこで、B従前の公売公告の一部(期間、期日)を変更するというのが妥当な方法に思われますが、変更部分を含む変更後の公売公告が新規の公売公告であると解する立場からは、これに対しても別途不服申立てが可能となり、理論上は難しい問題を含みます。

なお、地方税法19条の7第1項但書(執行停止)は不服申立てに関するものであり、不服申立てに引き続いて取消訴訟を提起しても(なお、地方税法19条の12により不服申立前置主義が採られています。)、別途執行停止を申し立て、裁判所が認容決定をしない限り、執行は停止されません(行訴法25条1項)。その結果、訴訟係属中に換価が終了することにより、狭義の訴えの利益が消滅し、取消訴訟が却下される事態が生じることがあります。

賦課処分の違法と滞納処分の違法

賦課処分は滞納処分を当然に予定するものではなく、滞納処分は督促をしても完納されないときにはじめて検討されるものです。したがって、賦課処分の違法性が滞納処分に承継されることはなく、滞納処分の不服申立て・取消訴訟において、賦課処分が違法であるという主張をすることはできません。賦課処分の違法を主張するのであれば、不服申立て期間内に賦課処分の不服申立てを、出訴期間内に賦課処分の取消訴訟を提起する必要があります。