弁護士 羽根一成
要綱で定められた「給食の単価は、280円とする」を超える給食費の支出に違法はないとされた事例(東京地裁平成23年1月14日判決)
平成20年度は食材価格が高騰しており、給食費の支出を設定された1食単価の範囲内に抑えるために、給食の献立に苦心したり、思い切って、保護者から徴収する給食費の値上げに踏み切った地方公共団体が少なくないようです。
本件では、給食費を公会計の方法により管理していたところ、食材価格が高騰していることに気づかないまま、例年どおりの献立を提供した結果、給食費の支出が要綱で定められた「給食の単価は、280円とする」を超えてしまいました。このような場合、違法な公金の支出とされ、支出命令をした課長個人が損害賠償責任を負うことになるのでしょうか。
監査結果では、調理場の担当者が収入を過大に見込んだ事実に気づかずに事務処理を行ったこと、毎月基準単価を超えた食材の購入が続いたこと、これらに対する組織としてのチェックが機能していなかったこと等から、「給食の単価は、280円とする」を超えた部分は違法な公金の支出であるとされています(ただし、課長に重過失があったとまではいえないとされています。)。
公金の支出に対しては、歳出予算に違反しないこと(地方自治法232条の3、232条の4)、最少経費・最大効果の原則に違反しないこと(無駄遣いでないこと)(地方自治法2条14号、地方財政法4条1項)という規制があり、このことは給食費の支出についても当てはまります。本件では、給食費の支出は(項間の流用はあるものの)歳出予算の範囲内であり、例年どおりの献立であれば無駄遣いをしているともいえないので、これらの規制についてはクリアすることができそうです。
そうすると、問題は、「給食の単価は、280円とする」にありそうです。
学校給食法は、学校給食の実施に必要な施設、設備に関する経費、学校給食の運営に関する経費は学校の設置者の負担とし(11条1項)、それ以外の学校給食に要する経費(給食費など)は、児童、生徒の保護者の負担とすると定めています(11条2項)。
しかし、学校給食法2条が定める学校給食の目標(単なる栄養摂取の手段ではなく、食育など教育の一環でもあること)からすれば、学校給食法11条の規定は、地方公共団体が給食費を支出してはならないことを定めたものと解すべき理由はありませんし(昭和33年4月9日付文部省管理局長回答参照)、そもそも、公会計の方法を採用する場合は、給食費はすべて地方公共団体が支出することになります。また、学校給食は、1食280円の食材セットを調達するのではなく、多種多量の食材を調達して、適宜調理するのであり、日々の1食単価が280円を超えないようにすることなどほとんど不可能です。
そうすると、学校給食法11条の規定及び「給食の単価は、280円とする」は保護者の負担範囲、換言すれば、地方公共団体の徴収根拠を定めたもの(歳出予算ではなく、歳入予算に関するもの)と解するべきでしょう。本判決は、これと同旨を述べ、要綱で定められた「給食の単価は、280円とする」を超える給食費の支出であっても、違法ではないとしました。
なお、収入が見込みどおりでなかったからといって、給食費の支出が違法となるわけではありません。また、本件では、監査結果にある上記事情から、特別会計内の現金に不足が生じており、食材の調達先との関係で債務不履行に陥ることを回避するため、一般会計からあわてて公金振替がなされました。しかし、このことは特別会計内の現金管理の適否の問題であり、このことによって給食費の支出が違法となるわけではありません。