弁護士 羽根一成
1 数年度にわたる事業について、継続費として予算を定めないことが直ちに違法であると解することはできない。
2 債務負担行為は、一定額の金銭の支払い義務等の特定の債務を特定の相手方に対して負担を約する行為であることを要する。
3 議会の議決を要する財産の取得にかかる「1件」とは、不動産を取得する際の契約の単位を意味する。(東京高裁平成23年10月25日判決)
本判決は、判示事項3について、本誌614号58頁でご紹介した千葉地裁平成22年12月17日判決(議会の議決を要する土地の買入れなのかどうかは、事業を単位とするのではなく、売買契約(地権者ないし筆)を単位として判断するとした判決)の控訴審判決になります。
千葉地裁判決については、いくつかお問い合わせがありましたので、判示事項3が争点となっている紛争は少なくないようです。本件は、「1件」の意味が正面から争われ、本判決は、東京高裁がそれについて正面から判断し、「「1件」は1事業を意味する」という主張(一団の土地を意味するという主張も同様)は、地方自治法96条1項8号「の規定や趣旨目的を無視した独自の見解に基づくものであ」るとしたものであり、実務上の参考になると思います。
ところで、本判決には、「1件」の意味についてだけでなく、予算に関する重要な判示事項が含まれています(判示事項1・2)。
すなわち、地方自治法212条は、「普通地方公共団体の経費を持って支弁する事件でその履行に数年度を要するもの」については予算に継続費を定めるべきことを規定していますが、本判決は、「事業が長期にわたり、その後の支出が変更される可能性が高い場合などは、継続費として定めることに適さない場合もある。地自法212条が、継続費として支出することも「できる」と定めていることからしても、数年度にわたる事業について、継続費として予算を定めないことが直ちに違法であると解することはできない」としています。
これは、数年度にわたる事業については、会計年度独立の原則ないし予算単年度主義(地方自治法208条2項)のとおり、会計年度ごとに、議会の議決を経ることもできるし、継続費の制度を利用することによってそれを省略することもできるのであり、継続費の制度を利用することが義務づけられているのではないということであって、継続費は、会計年度独立の原則の例外であるだけでなく、総計予算主義(地方自治法210条)の例外でもあるということと親和的であるといえます。継続費を定めても、会計年度ごとに当該年度の支出額を歳出予算に計上しているのが通例と思われますが、それは、総計予算主義の要請上の措置(歳入予算と歳出予算の不一致が生じないようにする実務上の措置)であり、法がそれを義務づけているとまではいえないと解されます。
また、地方自治法214条は、「普通地方公共団体が債務を負担する行為」については予算に債務負担行為を定めるべきことを規定していますが、本判決は、債務負担行為を定めることが義務づけられているとされるには「一定額の金銭の支払い義務等の特定の債務を特定の相手方に対して負担を約する行為であることを要する」としています。
これは、契約締結に至るまでの交渉過程において、基本協定書、覚書といった書面が交わされることがあっても、そのすべてについて債務負担行為を定めなければならないのではないということです。わかりやすくいえば、債務負担行為を定めなければならないのは、相手方がその契約(書面)をもって訴訟を提起し、強制的に実現させることができるものに限られ、いわゆる紳士協定はこれに該当しないということです。