争訟法務最前線

第62回(『地方自治職員研修』2012年2月号掲載分)

下水道使用料と「使用料」の徴収に関する処分

弁護士 羽根一成

今月の判例

下水道使用料の納入通知は、地方自治法225条にいう「使用料」の徴収に関する処分に当たる。(東京地裁平成23年12月9日判決)

下水道使用料の賦課

水道高熱費といった公共料金のうち、民間会社が運営する電気、ガスの場合はもちろんのこと、地方公共団体が運営する水道の場合も、水道法15条1項により契約(給水契約)を締結することとされており、電気代、ガス代、水道代はいずれも契約に基づく債務ということになります。

これに対して、下水道については、下水道法が、「都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、あわせて公共用水域の水質の保全に資する」(下水道法1条)ため、土地の所有者等は「その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠その他の排水設備を設置しなければならない。」(下水道法10条1項本文)とし、「公共下水道管理者は、条例で定めるところにより、公共下水道を使用する者から使用料を徴収することができる。」(下水道法20条1項)としており、土地の所有者等に、排水設備の設置を強制し、地方公共団体(公共下水道管理者)に、下水道の使用者から使用料を徴収する権限を付与しています。

すなわち、下水道の使用者は、契約を締結していないのに、下水道を使用し、使用料を支払わなければならず、下水道使用料は、(税金と同様に)賦課徴収されるものであり、納入通知(地方自治法231条)は、下水道使用料を賦課する行政処分(納入通知処分)ということになります。

「使用料」の徴収に関する処分

本判決は、(直接は触れてはいませんが)下水道使用料の納入通知が行政処分であることを前提として、公共下水道は「市町村又は都道府県が、都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、併せて公共用水域の水質の保全に資することを目的として、主として市街地における下水を排除し、又は処理するために設けられた施設である(下水道法1条、2条3号、3条)から「公の施設」に当たる」とし、下水道使用料は「地方自治法225条によって普通地方公共団体が徴収できる「公の施設」についての使用料であるということができる。」としました。

地方自治法231条の3第3項(「使用料」について、地方税の滞納処分の例により処分することができるとする規定)は、地方自治法225条に定める「使用料」の徴収方法について定めた規定であるところ、下水道使用料については、地方自治法附則6条3号が、地方自治法231条の3第3項にいう「使用料」に該当すると明文をもって定めている以上、下水道使用料は「この点からも、地方自治法225条にいう「使用料」に当たると解すべきことになる。」ということになります。

「使用料」の徴収に関する処分に当たることの意味

下水道使用料の納入通知が地方自治法225条にいう「使用料」の徴収に関する処分に当たるとなると、それに不服がある者は、30日以内に審査請求をしなければならず(地方自治法229条3項)、審査請求をしなければ裁判所に出訴することができない(審査請求前置主義。同条6項)ことになります。

地方公共団体としても、この審査請求に対しては、議会に諮問し、その答申を受けてから決定しなければなりません(地方自治法229条4項)。のみならず、納入通知には教示文を記載しなければならないことになります(行政不服審査法57条)。

ところで、下水道使用料の納入通知は賦課処分ですから、それにより、金額、納期限等が確定し、具体的な下水道使用料の納入義務が発生することになると思います。消滅時効も、この納期限の翌日から進行することになると思いますが、地方自治法には、地方税法18条3項のように、徴収権の消滅時効の規定が見当たりません。納入通知がない限り、消滅時効が進行しないというのも妙な気がします。