弁護士 羽根一成
契約金額の20%とする賠償金の規定が有効とされた事例(横浜地裁川崎支部平成24年4月26日判決)
平成15年に国交省が談合違約金制度(国発注の公共工事の請負契約において契約金額の10%とする賠償金を定めておくこと)を導入したことに倣い、地方公用団体発注の公共工事の請負契約にも不正行為(カルテル・談合)に対する賠償金規定が盛り込まれていることが多いようです。新聞報道によると、都道府県レベルでは、賠償金を契約金額の30%とするのが1県、20%が37府県、15%が2県、10%が7都県となっています。
公共工事の請負契約の契約書式を見ると、賠償金規定の法的性質がよくわからないものがありますが、法律上、債務不履行について損害賠償を予定することができることとなっており(民法420条1項)、賠償金規定は、この損害賠償の予定として定めるべきでしょう。そのためには、不正行為をしないことが契約上の債務として明示されていることが必要です。この場合でも、「予定された賠償金の額が原告の損害を著しく上回ることが明らかである場合」には、公序良俗違反(民法90条)とされるおそれはありますが、賠償金を契約金額の20%(以前談合疑惑があり誓約書を差し入れていた場合は30%)としても、この場合には当たらないとしたのが本判決になります。
公共工事の請負契約は、地方公共団体の用意した契約書式によることが事実上強制されています。すなわち、入札公告等で、地方公共団体が用意した契約書式によることが条件とされ、指名停止要綱等で、落札したにもかかわらず契約を締結しないことが指名停止事由とされているのが一般的です。
契約は当事者間の意思の合致により成立するものですから、意思の合致がない事項について契約は成立し得ず、また、優越的地位を利用してあるいは不意打ちとなるようなかっこうで、相手方に一方的に不利な条項を設けていると、その契約上の権利行使が信義則違反(民法1条2項)や権利濫用(民法1条3項)とされるおそれがあります。
そこで、入札公告の段階で、賠償金規定を明示し業者がそのことを承知して、任意に応札できるようにしておくことが必要です。
公共工事の請負契約は、地方公共団体と業者との個別契約であることに疑いありませんが、昔の名残なのか、「約款」という名称が付されていることがあります。
約款は、電気、ガス、鉄道など想起するとわかりやすいのですが、優越的地位にある者が一方的に定め、相手方には個別交渉の余地がないものであり、現在進行中の民法改正作業においては、その規制が議論されているところです。
「約款」という表題が付されていると、業者から、公共工事の請負契約が、地方公共団体が優越的地位を利用し、締結を強制させたものであることの根拠として利用されることになり、百害あって一利なしのように思います。「契約条項」など別の名称にするわけにはいかないのでしょうか。
賠償金が高額にすぎると、業者が倒産するおそれがあります。賠償金の額を契約金額に応じるものとしている場合、賠償金が高額であればあるほど業者は地域の有力企業(いわゆるAの等級に格付けされている者)であるということになり、地域経済(雇用)に及ぼす影響は小さくありません。
新聞報道によれば、平成22年に沖縄県が総額97億円の賠償金を減免する調停に応じ、これに追随することを求める建設業界の動きが他県にも広がっています。あながち否定されるべきことではないように思いますが、住民訴訟のリスクを長等が負うことになりますので、業者の資産状況、地域経済に与える影響などを裏付ける資料の収集は欠かせません。